日本のスタートアップの環境を是正したいーーエンジニア経験を生かし、複数企業を支援する理由とは?

坂口(田邊)賢司|株式会社プロフィットメイカーズ 代表取締役

2003年業務系SI会社へ入社。メガバンクの基幹システム開発に携わり、エンジニアとしてのキャリアをスタートする。2009年SI企業からWebサービス系の事業会社へ転身し、2012年株式会社トライフォートの設立を経て、同社運用統括本部長として事業成長に貢献。2014年ランサーズ株式会社へCTOとして参画し、クラウドソーシングプラットフォームの運営においてエンジニア部門を統括。2015年、株式会社Emotion Techに参画、取締役CTOに就任し、同社の成長に大きく貢献。現在は2015年に創業した株式会社プロフィットメイカーズの代表取締役を務めつつ、株式会社ハンズオンの取締役CTOなど、複数社の取締役や顧問、アドバイザーを務める。

株式会社プロフィットメイカーズについて

複数社の顧問・アドバイザーを務めている坂口さんですが、現在代表を務めているプロフィットメイカーズについて教えていただけますか?

プロフィットメイカーズは、大きく分けてスタートアップ支援とサービス開発の2軸で事業を展開しています。

スタートアップ支援では、金銭的な支援だけではなく、実務に直結する支援を中心に行っています。例えば、システムのロードマップの作成、予算管理、ペルソナ設計など、起業するうえで必要なノウハウを提供しています。一方、サービス開発では、システムのマーケティングや企画〜デザインまで一通り行う受託と、常駐型やリモートで業務のリソースを提供(開発リソースならばSESのようなリソース支援を提供)しています。また、自社サービスの企画開発としては、現在、AIを使ったグルメ系のシステムを開発中です。

フリーターからエンジニアになるまで

続いて、坂口さんのキャリアについて伺います。エンジニアになるまでどのような人生を歩んできましたか?

高校卒業後は、やりたいことが見つからず、大学へ行くのも、お金のためだけに働くのも何か違うなと思い、5年間程アルバイトや契約社員として過ごしていました。

その間も本当にやりたいことを見つけるため、少しでも興味がありそうな仕事を見つけては、一度やってみるということをしていましたね。ガソリンスタンド、レストランやパソコンを使ったデータ入力など様々なことを経験しましたので、対人コミュニケーションスキルはそこで身に付けたかもしれません。

それから25歳の時、「スーツを着てデスクワークをするようなホワイトカラー系の仕事をしてみたい」と憧れ、SI会社へ入社しました。当時は、給料が安くて重労働といった意味の「IT土方」という言葉が使われ始めた時代で、未経験者でも厳しい研修期間を経たら、就職できる会社は結構ありました。今で言うブラック企業も多かったですが(笑)

私が入社した会社の研修は、ビジネスマナーが中心だったのですが、そこで半分は脱落してしまうほど厳しかったんです。一方、プログラミングの勉強は独学でしたね。難しいところはもちろんありましたが、特に苦にならずに進められました。おそらく、20代中盤に差し掛かっていたので、そろそろ本気でやらないと駄目だな、という焦りもあったように思います。

入社から1年半くらい経った頃、上司から「本部長やってみないか」と打診されました。正直、いきなり20~30人の部下のマネジメントなんて出来ないと思いましたが、断れない雰囲気で(笑)妥協案として「一人では絶対見れないので、同役職の人を他に2人つけて3人体制にしてください」と提案しました。ここには4~5年在籍していましたが、最終的には300人くらいの組織になっていったので100人近くのマネジメントを行っていましたね(笑)

どのようにしてマネジメントを学びましたか?

マネジメントを勉強するためのまとまった時間を取れなかったので、先輩社員に聞いたり、同じ常駐先にコンサルとして入っていた船井総研の方に聞いたりしながら、マネジメントしていきました。

自社開発では、新規事業の立ち上げを経験

その後、株式会社オウケイウェイヴへ転職した理由は何ですか?

SIあるあるだと思うんですが、企画含めてサービスの最初~最後まで携わりたくなったというのが理由で、自社サービスを開発しているオウケイウェイヴへ転職しました。

最初は、カルチャーギャップに苦しみましたね。オウケイウェイヴの開発言語はJavaを採用しており前職と同じだった為に、そのままスキルが生かせるのでは、と思い入社したのですが全然違いました。自社開発は、SIのようにエンジニアリングだけしていれば良いというわけではなく、マーケなど他の部署との連携も考えなければいけません。また、売上など数字を見ながら、臨機応変に開発を進めていかなくてはいけないのでスピード感も圧倒的に早かったです。とは言っても、自分でアーキテクチャー含めて決められたり多くのことを学べて、非常に楽しかったですね。

また、ずっと「1からサービスを作りたい」と思っていたので、新規事業の話が出た時は、自ら手を上げました。当時、Rubyを使う開発プロジェクトや、ソーシャル連携するサービスの開発が流行っていたので、それらが経験できるサービスの立ち上げに携わることは願ってもないチャンスでした。この時、人生で初めてScript系の言語に触ったのですが、最初、全然できずに先輩からはぼろくそ言われましたね。技術面、マネジメント面の両面で優れていた先輩だったので、言っていることに納得感があったのですが、非常に厳しく指導されたので、円形脱毛症になるくらいのストレスはかかっていました(笑)

その後、株式会社インタースペースへ転職した理由を教えて下さい。

ある時、既存事業のフルリニューアルのため、新サービス開発には当分携われないという状況になったので、インタースペースへ転職しました。インタースペースは、メディア系のサービスが主でしたが、自分で企画して考えて手を動かしてということはもちろん、部署の立ち上げを含め一から経験できました。

会社設立やCTOへ就任。大規模な組織拡大を2度経験

2012年、株式会社トライフォートを設立してますが、設立までの経緯を教えてください。

当時、トライフォートの代表を務めていた小俣に「会社を作るから手伝ってくれないか」、と誘われたことがきっかけです。もともと気の合う仲間だったので、半分趣味でビジネスマッチングなど200人規模のイベントを開催したりしていましたが、仕事となると少し変な感じがしました。そのため、最初は渋りましたが、立ち上げや資金調達が決まる位までの期間だったら良いのではないかなと思い、手伝うことにしました。トライフォードでは、「100~200人規模にしたら辞める」と決めていたので、恐らく4~5年くらいいるだろうな、と思っていたのですが、実際は、1年半で目標数値を達成することができました。

どのように拡大していったのですか?

トライフォートは開発会社だったのですが、早いうちから案件が決まっており、あとは採用するだけという状態だったんです。そのため、仕事を受けても対応する人がいないと大変なことになると思い、まず、私以外にもマネジメントができそうな人を採用し、スタートアップでは珍しいと思いますが、創業3ヶ月にして専任の人事を採用しました。当時、インフラ管理等、必要経費を差し引いても、キャッシュは十分にあったので積極的に採用へ投資しました。

ただ、こんな短期間で急拡大できたのは、代表の小俣の人を惹きつける力が大きいと思いますね。

組織の急拡大で感じた課題はありますか?

会社のカルチャーを創るのが難しかったですね。通常、会社のカルチャーは「我々のカルチャーはこれだ」と明文化して、それなりの時間をかけて社員にインプットしていく必要があると思いますが、一気に100人採用すると、当然、このようなカルチャー形成が出来ませんでした。

代表の小俣自体は、内外に発信力が高い人間だったのですが、それをマネージャーが理解し、組織として仕組化できるか、というとまた別の話です。トライフォートの場合は至らない部分もあり、15人入っては、10人辞めていくということが当時は起こっていました。最初は、業務委託で人を増やしていたので、そこまで大きな損失はありませんでしたが。

2014年ランサーズに入社するまでの経緯を教えて下さい。

それから、トライフォートでの組織拡大の経験が買われて、ランサーズに入りました。

ランサーズは、当時、マーケットとしても新しかったですし業界的にも注目していました。今まで、新規事業は挑戦してきましたが、新しいマーケットを作るという経験はなかったので、挑戦したいと思いました。また、シェアリングエコノミーやビジョナリー型の会社経営にも興味がありましたので、それも理由の1つです。

ランサーズではCTOへ就任されていますが、主にどのような業務を経験されましたか?

主な業務は、採用方針や技術方針を決めていくことですね。入社当時からのミッションでもあった採用に関しては、30名規模の組織から120名位まで増やしました。

その傍ら、古いサービスのリプレイスやインフラの整備など、手を動かすこともありました。当時、法人向けクラウドソーシング「ランサーズfor business」の立ち上げや、既存システムのリファクタリングやリプレイスが大きな課題でした。7年間で蓄積された負債によって、大規模障害が起きたりとトラブルが起こったこともあったので、最低限の品質を保守できるように、バージョンを上げたりなどリプレイスできる体制まで整えました。

事業を伸ばさなくてはいけないフェーズで、リプレイスにどれくらいの時間や人を割くのかは難しい判断かと思いますが、坂口さんはどうお考えですか?

やはり会社として、事業的に攻めにいこうという段階だと、守りはどうしても甘くなるので、最低限のラインの保守(品質)を担保しながら、どう攻めに転じるかというのは難しい舵取りだと思いますし、それをやるのがCTOの役割だと思っています。

事実、CTOがきちんと技術において説明責任を果たしていて、きちんと事業にも貢献している組織の場合は、CTOにも発言力がありますので、開発としてもどうしたら良いかというところだけでなく、経営者な視点で他の経営陣と会話ができると思います。

同時期に2社へ参画。自ら、シェアリングエコノミーを体現

エンジニアとして長年やってきた中で、”代表”としてプロフィットメイカーズを創業した理由を教えて下さい。

男子がよく言う「社長になってみたい」というくらいの漠然とした想いは昔からありました。実は、一度トライフォート時代に、起業したのですが、1~2年でうまくいかず畳んだという苦い経験があります。その時は私自身が”代表”ではなかったので、今回は”代表”を経験してみようと会社を立ち上げました。

また、ランサーズが推進している新しい働き方(シェアリングエコノミー)から刺激を受けたことも大きいですね。私自身で、自由にできる箱(会社)を創って、別の仕事も生かすような働き方を自分なりの人生で試してみようと思いました。

同時期に株式会社EmotionTechのCTOも務められていますが、それもシェアリングエコノミー的な働き方所以ですか?

当時、会社を創業する話をしていた時に、妻に「その会社1本だけでやっていける?」と言われました。妻を説得できないのであれば、他人を説得出来ないと思い、「他で給料貰いながら、独立する」という方向性で納得してもらったんです。

そこで、何か心踊るようなサービスがないかと探していた時に、顧客体験向上サービスを提供しているEmotion Techを紹介され、そのビジョンやサービスに共感できたので入社しました。

ただ、入社前は、社内に2人のエンジニアがいると聞いていたのですが、入社してみるとその2人は業務委託でさらには週2回の出勤だったといういきなり予想外の事態に見舞われましたが・・・・・・(笑)

株式会社EmotionTechでは、CTOという立場でどのようなことを行っていましたか?

所謂0→1のフェーズで、KPIも事業計画もまともなものすらないという状態でしたので、エンジニア組織を含めてカルチャーを創っていくことからスタートしました。また、組織が小さい時は、俗人性が高い組織になりがちですが、私は、誰が抜けても大丈夫な状態が正しい組織の在り方だと思っているので、Emotion Techでは最初から意識して俗人性を排除した組織作りを行いました。それは、CTOである私も同様で、「私が抜けても回る状態」を作り出すため、日頃の業務でも、私は答えを出さず、あくまで誘導するだけで、メンバー自らが考え行動できるように努めていました。

自分がCTOポジションを降りる時は、やはり次期CTOを置くべきですか?

辞める時は、組織に次のCTOポジションはいた方がよいと思います。外部から見つけるのなら、技術スキル、マネジメントスキル、会社が大事にしていること全て一致している必要があります。

一方で、内部からCTO候補を育てるのは、スタートアップやベンチャーでは育成にコストをあまり掛けられないことも多いので難しいかもしれないですが、本来は理想の形ですね。例えば、スキルがなくてもきちんと勉強して伸びていける可能性のある人や、何かしらアウトプットしている人というのは採用の時点でフィルタリングする必要があります。そのような人は、こちら側が考え方さえ教えてあげれば、自分自身で成長していきます。採用したら、あとは仕掛けです。社内で勉強会や1on1や情報共有のチャットを作るなど仕組み化して彼らが成長できる環境を整えてあげる必要があります。

最終的にマネジメントの道へ進むか決めるのは本人の意志ですが、マネジメントを「今はやりたくない」と言っている人でも、目的思考の人の場合は、考えが変わる可能性も十分あり得ます。また、「どちらでもよいよ」と言う人もやらせてみると向いている人もいますしね。

スタートアップに転職する場合や起業する場合、どのように家族を説得すべきでしょうか?坂口さんはこれまでどのようにしていましたか?

スタートアップに挑戦したい当人は、例え、妻からのブロックに遭おうが、会社から引き止められようが自分が本当にやりたいと思ったら、しっかり話合い納得してもらったうえでチャレンジすべきだと思います。

またその際、当人だけではなく、その入社する会社の社長や、起業するのであればその仲間を含めて自身の家族を説得しなければいけない場面もあると思います。実際私はそうしてきました。従業員の家族へ直接会ったり、手紙を書いたりなど、きちんと説明責任を果たして、熱を持って取り組んでいくことが大事だと思います。スタートアップの場合、時間の制限もありますが、最大限の努力はするべきだと思います。

最後に、今後プロフィットメイカーズで実現したいことや坂口さんの夢を教えて下さい。

自分のキャリアについてはあまり考えていませんが、実現したい夢は明確にあります。それは、「日本独自のスタートアップのエコシステムを作ること」です。

今、シリコンバレーで起業するのと日本で起業するのとでは、10倍~100倍位の大きな差があります。それは、資金面もそうですが、一番足りていないと思うのは、実務面の支援です。日本の場合、スタートアップやベンチャーに対して、実務の部分まで具体的にアドバイスできる人も、実務支援の仕組みも少ないように思います。

そこで私たちが、事業計画の数値を達成するために必要なセールス、企画、プロダクト、デザイン、開発とは何なのかハンズオンで教えたり、リソース支援していくことで、もっとチャレンジする人の成功確率があがり、チャレンジした結果が報われるような社会を作っていきたいです。「ここは日本だから」という理由だけで実現ができないという環境による不公平感をなんとしても是正したいですね。

これさえ実現できれば、正直、自分の立場やキャリアとかはどうでもよくて、私の尊敬する先輩CTOも言っていたのですが、いつか飲み屋で、「あの企業、ユニコーン企業になる前に相談乗ってたんだよね」と言えればそれでよいですね(笑)


坂口さんは、CTO/VPoE養成講座の講師も務めてくれています!ご興味ある方は、是非以下よりお申込み下さい。

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