サービスに無頓着だった私が、ビジネスサイドの意図をくみ取る“バランス型CTO”になるまで

訪日外国人旅行者向け観光プラットフォームサービスを提供するWAmazing株式会社。2019年11月、VPoE→CTOへ就任した吉野氏へご自身のキャリアや今後についてお話を伺いました。

WAmazing株式会社 CTO 吉野哲仁氏プロフィール


吉野哲仁(よしの・てつひと)|WAmazing株式会社 CTO
SIer数社を経て2007年ヤフー株式会社入社。Yahoo!ショッピングなどのプロジェクトをリード。2013年、中国アリババ社に半年間出張し、淘宝・天猫のシステム/業務を学び、中国ビジネスのスピードと規模の大きさに刺激を受ける。その後、Yahoo!トラベル開発リーダー、アスクル株式会社への出向を経て、2016年に同社テクニカルディレクターに就任。ショッピング・トラベル・ダイニングサービスのバックエンドエンジニアを努め、注文システムリニューアル技術責任者を務める。2019年、WAmazingのビジョンに共感し、VPoEとしてジョイン。現在はCTOとして「インバウンドx地方事業者」をテクノロジーで繋げるサービス作りに挑戦している。

WAmazingについて


――御社の事業内容を教えて下さい。

WAmazingは「日本中を楽しみ尽くす、Amazingな人生に。」をビジョンに掲げ、2016年に創業した会社です。情報収集から交通・アクティビティや宿泊施設などの予約、決済までをワンストップで可能にする訪日外国人旅行者向けプラットフォームサービスを提供しています。サービス利用者は、タビ前に自国から「WAmazing」のアプリ、WEBサービス、WeChatにてサービスを利用出来るほか、旅行中のインターネット通信に必要なSIMカードを日本国内にある22の空港に設置された専用受取機から無償で受け取ることが出来ます。

現在、台湾・香港・中国を始め、ASEAN等にもサービスを展開し、2017年のローンチ以来、急速に利用者数を増やしています。

学生時代:パソコンに触れ、インターネットの世界に魅了された


—―エンジニアを目指すきっかけは何でしたか?

私が中学生の頃、父がパソコンを買ったんです。当時、パソコンは一家に一台置いてあることも珍しい時代で、とても貴重なものでした。父はそれを仕事で使用しておりましたが、私はそのパソコンでゲームをしていましたね。最初は、ゲームをすること自体が楽しかったのですが、だんだん「このゲームはどのようして動いているんだろう?」というパソコンの仕組みやソフトウェア自体に興味を持ち始めました。

それから、それらを学ぶため情報処理科のある商業高校へ進学しました。入学祝いで父からパソコンを買って貰い、さらにパソコンに触れる機会が増えたことで「将来、インターネット業界で働きたい。」と思うようになりました。

その後は、専門学校のコンピューター総合技術科へ進学し、C言語などプログラミングの基礎を勉強しました。同級生の中には、「中学校の頃からプログラミングを勉強している。」というような強者もいて、結構ギークな方が多かった印象です。(笑)

新卒時代(SIer):夢のインターネット業界へ足を踏み入れる


――どのようにして最初の会社を選んだのですか?

第一に、“色々な仕事を経験出来る職場で働きたい”という思いがありました。そのため企業の大小はそこまでこだわりはなかったのですが、大手企業だとしがらみやらで働きにくそうというイメージがあったため、エンジニアとして幅広い経験ができそうな中小規模のSIerへ入社を決めました。もちろん働いたこともなかったので、大手企業のイメージというのは、あくまで私の想像でしたが。(笑)

それから様々な案件に携わり3年程経った頃、上手く案件を回せている感覚を持つようになり、さらにお客様先・上司からも高く評価していただいていたので、「結構、俺できるじゃん!」と天狗になっていましたね。そんな時、ある医療系巨大規模のシステムの一部分を担当することになったのですが、その現場で沢山の優秀な方々に出会いました。特に印象に残っているのは、Oracleマスターの最高峰であるプラチナを持っているスペシャリストの方とJavaの本を執筆しておりエンジニア界隈で有名な方です。その方々は、現場でもとてもパフォーマンスも高く、スピードが速いのに品質も凄く良いんですよ。今まで見た事ないような綺麗なプログラムを目の当たりにして、私の天狗の鼻はポキっと折られました。(笑)もっと成長するためには環境を変えなければいけないと思っていた矢先、そのプロジェクトで出会った方にお誘いいただいたので、別のSIerへ転職することを決意しました。

ーー成長を求めて転職されていますが、次のSIer会社はいかがでしたか?

お誘いしてくれたのはその会社の上層部の方で、とてもマネジメント能力に長けていましたので、身近で“トップになる人間の姿勢”を学ぶことができました。その方がいることでチームが円滑に回り、且つメンバーも気持ち良く仕事ができるという状態を作り出せるというのは凄い能力だなと思っています。

もともとは、「トップになる人間が1番技術に長けていなければいけない。」と思っていたのですが、その方との出会いから、色んな分野に長けている技術者に頼りながら、それらを組み合わせて進めていくことが本当のマネジメント力だなと思うようになりました。

ヤフー時代:人生初のリーダーを経験


――ヤフーへ転職した理由を教えて下さい。

転職を考えたのは25歳の時。「もっと凄い方と働いて成長したい。」というのが一番の動機です。これまで様々な案件に携わってきた中で、凄いと思うような方と仕事をした時、私自身の成長を感じることが出来ました。そのため、もっと凄い方が集まる環境へ身を置きたいと思い、当時、日本のインターネット業界のトップに君臨していたヤフーに迷わず応募しました。

――ヤフーへ入社して、リーダーになるまでの経緯を教えて下さい。

最初、Yahoo!ショッピングへ配属され、バックエンド(B側)を担当していました。同じメンバーで長い期間一緒に働いていくうちに、いつの間にか私がチームのリーダーのような役割を担っていて、後からポジションをいただいたという流れでしたね。

――初めてマネジメントを経験したとのことですが、何か苦労したことはありましたか?

リーダーへ昇格した時は、既にチームの状況は把握してましたし、メンバーとも上手くコミュニケーションが取れているという環境でしたので、難しいことはありませんでした。

ただ、リーダー・マネージャーというのは、やはり高いコミュニケーションが求められていると感じました。特に、ヤフーのような大きい企業はステークホルダーとして様々な方がいるので、その方達とうまく調整しながら進めるということはとても難しかったですね。

――もともと、リーダー気質だったんですか?

そんなことはないですね。私自身、コミュニケーション能力が高い人間だと思っていませんし、学生時代も自ら手を挙げてリーダーをやることはなかったです。そのため、ヤフーで人生初のリーダーを経験する事になった時は、少し嫌だなという思いがあったことを記憶しています。一方で、チームメンバーに恵まれていたことや、とりあえず挑戦してみようという気持ちの方が大きかったので引き受けました。最終的に40名規模の3チームをマネジメントした時は流石に無理だと思いましたけど(笑)

ヤフー時代:中国出張で味わった栄光と挫折。テクニカルリーダーに就任するまで


――2013年、中国(アリババ)へ出張へ行った経緯を教えて下さい。

当時テクニカルディレクターのポジションを担当されていた上司に可愛がっていただいたのですが、その方からいつも色々な無茶振りが飛んでくるんです。その中で一番の無茶振りが「吉野君、来週から中国へ行ってくれ。」でしたね(笑)

それは、当時、Yahoo!ショッピングが停滞期だったため、なんとか新しい事をやらねばということで立ち上がったプロジェクトで、会社の上層部から降りてきた重要案件だったこともあり、正直とてもワクワクしていましたね。宮坂さん(当時のヤフーの社長)と一緒に中国へ行き、中国のECを視察するなどプレッシャーはありましたが、「一旗揚げてやろう。」という気持ちの方が大きかったです。

――中国のEC業界はいかがでしたか?

中国は、日本のEC業界のー段も二段も高いことに取り組んでいるという印象でした。彼らは徹底力がすごく、ECを極めていくにはこれくらいやらなければ駄目なんだという事を痛感させられました。例えば、カテゴリの順番一つとっても、どの順番にすればクリック数を増やすことができるか、ユーザーが見やすいかを毎日細かいところまで分析をし、1日に数回順番を入れ替えていたりと、徹底的にユーザー視点に立って運用してました。

――エンジニアも、中国と日本で違いますか?

エンジニアがどれだけ思想やビジョンに共感して業務を取り組んでいるかという点は、日本と大きく違うと感じました。おそらく日本のエンジニアは「モノを作ることが自分たちの仕事だ。」と思っていて、それ以外は他の人が考えてくれるという意識を持っている人が多いと思います。正直、私も中国に行くまでは、サービスに対して愛着があまり無く、技術へのこだわりが強いエンジニアでした。

一方で、アリババのエンジニアはとても勢いがあって、皆口を揃えて「我々が市場を作っているんだ。」と言うんです。彼らは、モノづくりをするだけではなく自身のプロジェクトの全領域を見ていました。それ故、将来、技術のスペシャリストを目指す人より、ビジネスの方へキャリアを広げていく方が多いため、元々エンジニアだった方が事業の上のポジションに就いている場合も多々ありました。

――2014年、日本に戻るきっかけは何でしたか?

当時、Yahoo!ショッピングの執行役員が小澤さんに変わり、ビジネスモデルが大きく変わりました。そのため、中国のプロジェクトは中断になり、私達は道半ばで日本へ帰国しました。モチベーション高くやっていた私は、それから凄く気落ちして1ヶ月位休みましたね。

そんな状況の時、新しい案件(Yahoo!トラベル)を進められ、気落ちはしていたのですが新しい現場でもう一度頑張ってみようと思いやることにしました。

――難局を乗り越えて、2016年にはテクニカルディレクターに就任されましたね。具体的にどのようなお仕事をするのですか?

正確にいうと技術の本部長がいてその方が組織を見ており、私が技術的な部分を見るという役割分担でした。主な業務は、システムの案件のレビューや品質を上げるための施策を考えたり、別サービスのテクニカルディレクターとの連携が多かったように思います。

ヤフーは非常に大きい組織なので、全社としての技術の方針を受けて、自分の担当サービスにどう適用していくかを考えることが多かったです。ディレクションやマネジメントがメインのため、自らコードを書くことはありませんでした。もちろん、書きたい気持ちはありましたが、一方でテクニカルディレクターというなかなか挑戦できない役割をまっとうしようという気持ちの方が大きかったです。正直、コードを書くということは、仕事でなくても趣味でできますしね。

WAmazing時代:30代後半、スタートアップへ挑戦することを決意


—―WAmazingへ転職した理由を教えて下さい。

色々な意味でタイミングが来たなという感じでした。ヤフーに12年間在籍しており、テクニカルディレクターというポジションも丁度3年間務めたので、一通りやり遂げたという思いがありましたね。今後、社内で別のチャレンジをするか、もしくは外に出ていくか模索していた時、転職活動を通してWAmazingに出会いました。

もし外へ出ていくなら1からできるスタートアップが良いなと考えており、その中でWAmazingを選んだ理由が大きく2つあります。1つ目は、会社のビジョンに共感できたことです。当社には「インバウンドの旅行者にもっと日本を楽しんでもらいたい。」、「もっと日本の地方を元気にしたい。」というビジョンがありますが、私もこれらに課題感を感じていました。2つ目は、今までやってきた業態と近かったことです。私は、ECとトラベルの経験があります。これまで自身がやってきた仕事が生かせる領域もありつつ、一方で新しくチャレンジする領域もありとバランスが絶妙でした。

—―2019年WAmazingではどのようにしてCTOになりましたか?

最初は、VPoEという形で採用されており、舘野さんがCTOを務めていました。彼はCTO経験が長い方だったので、横からCTOの仕事を学ぶつもりで入りました。けれど入って2週間くらいしたタイミングで、代表の加藤から「(前任者が)8月に退任するから、CTOになってなってほしい。」とお願いされましてCTOになりました。最初は少し戸惑いましたが、せっかくの機会だと思い、「とにかく何でもやってみよう」ということでお受けしました。

—―WAmazingのCTOとして、どのようなお仕事をされていますか?

最初はとにかく採用がミッションでした。もともと10人いない位の開発組織でしたが、半年間でデザイナーとか業務委託含むと10名以上採用しました。

その他、全然テクニカルな仕事ではないですが、キャンペーンの企画や数字の分析などマーケティングのようなお仕事もやっていますね。ヤフーの頃は完全分業でしたが、スタートアップは領域の区分はないため、その時必要だと思ったことは何でもやるという気持ちでやっています。実際、去年オフィスのレイアウト変更をしたのですが、その時も私と人事が一緒にレイアウトを考えて作ったり、評価制度を考えたりしました。むしろ、私は「やれることはなんでもやりたい。」というタイプなので、私には今の環境の方が合っているような気がします。

――CEO 加藤様が、吉野さんの事をB側の意向をくみ取ることに長けているバランス型CTOと評価されてますが、何故だと思いますか?

特にテクニカルディレクターを務めていた時は、経営層と会話する機会や会議に出る機会が多かったです。その中で、経営者がどういう視点でモノを見ているのか、どういう数値を気にしているのかを学ぶことができました。それは、きっと開発の現場にいるだけでは気づけなかったことでしょう。

それから、テクニカルディレクターになる前に出向していたアスクル社での経験も大きいと思います。アスクル社はまさにB側の小売業なので、中でどういった人たちが動いていて、どんな業務があるのか、倉庫や物流周りの知識など、B側に関するたくさんのことを学ぶことができました。

また私はエンジニアというのは、単にモノを作っているだけだと社内SIerみたいになってしまうと思っています。そうでなくてサービスを一緒に作ったり、数値をしっかり意識したりビジネスを考えられるエンジニアこそが、本当に価値のあるエンジニアだと思いながら、日ごろから仕事に取り組んでいます。それ故に、周りからみるとバランス型CTOに見えるのかもしれません。

ーーエンジニアがCTOになるために身に着けるべきスキルは何だと思いますか?

会社の規模や社内にどんなキーマンがいるかで変わってきますが、例えば弊社のようなスタートアップで自社サービスを展開している会社の場合、技術だけでなくサービスへの意識、ユーザ理解・マーケティング・数値分析の知識、それからB側の業務理解は必須だと思います。

これは私だけでなく、エンジニアやデザイナーのメンバーにも「エンジニアリング(デザイン)+何か」を身に着けて欲しいと伝えています。この「何か」が自分自身の市場価値を上げる武器になると考えているからです。

また、私には前職の執行役員 小澤さんから学んで今も大切にしている考え方があります。それは、「定性ではなく定量やファクトで話をすること」。どうしても定性対定性の議論だと声が大きい方が勝ってしまうので、定量的な材料を用意して判断するということは、CTOが意思決定するうえでとても重要な要素だと思います。

――最後に、今後CTOとしてどのように会社へ貢献していきたいか教えて下さい。

やはり第一に、テクノロジーで会社に貢献したいと考えています。例えば、インバウンドの方を相手にしていると、どうしても情報格差やコミュニケーションに課題を感じることが多いです。ここはまだまだテクノロジーで解決する余地があると思っています。

現在、コロナウィルスの影響によりインバウンドは大きな打撃を受けていますが、落ち着くタイミングで上手く加速できるように、今必要な準備を頑張っていきたいと思います。

この記事を書いた人
OCTOPASS編集部
OCTOPASS編集部
CTO育成及び就職支援サービス「OCTOPASS」の編集部。主にCTO層のインタビュー取材を担当。