楽しみながら仕事をするために起業。組織想いのCTOに聞く組織運営とオーナーシップの重要性

テックタッチ株式会社 取締役CTO 日比野 淳

ファンコミュニケーションズ、ユナイテッドでCRMの開発、広告ネットワーク構築、大規模toCアプリの立ち上げからグロースを経験。その後、米国に赴任し現地スタートアップと協業しモバイルランチャーアプリの立ち上げに従事。2018年3月にCEO 井無田仲とテックタッチを共同創業。プロダクト戦略やロードマップの立案、策定からクオリティチェックまで幅広く担当。

テックタッチについて

 
 
 

 
 
 

御社の事業内容について教えて下さい。

システム導入だけで終わらせない、利活用のためのDXプラットフォーム「テックタッチ」 を開発しています。
「テックタッチ」は、従業員が十分に使いこなせていない社内導入されている業務用ツールにナビゲーションを表示させ、利活用を促進していくホリゾンタルのSaaSプロダクトです。

対象システムの利用状況を可視化したうえで、ナビゲーションによるUI改善や自動操作による生産性向上など、アジャイルなDXを情シス主導でリードすることが可能です。

チュートリアルを再生するプレイヤーとお客様自身でチュートリアルを作成できるエディターをセットで販売しており、エディターはノーコードで簡単に作れるため、ストレスなく非エンジニアの方も使いこなすことができます。

従業員数が多い組織においてシステム活用の課題が強く、操作時間や問い合わせの削減効果が高い側面もあり、創業当時から国内の大手企業をターゲットに製品展開してきました。現在はトヨタ自動車や三井不動産、凸版印刷など、日本を代表する企業様に活用いただいています。

また、企業内の業務ソフトウェアだけでなく、SaaS提供者や自治体・官公庁でも導入されています。

友人からの一言で始まったエンジニアキャリア。新規事業の開発マネージャーに従事し、現CEO井無田と米国での事業展開まで挑戦した成長期

日比野さんがエンジニアを職業として意識したきっかけを教えてください。

最初の動機はすごく些細なことで、友人から「junってネットサービスに疎いよね」と言われたことでした。

高校時代、特にやりたいことを見つけられていなかった私は、センター試験2日目をボイコットし、大学に進学せず、同級生のみんなが大学に通う4年間は自由気ままにアルバイト生活を送っていました。

コンピュータへの興味関心も薄く、当時はSNSやファイル共有サービスなどが普及し始めていたのですが、私はそういったネットサービスとの接点すらなく、食わず嫌いのような状態でした。

そんな中、友人に冒頭の若干挑発的な言葉を受け、対抗心だけがモチベーションになり、インターネットサービスを色々触るようになり、その面白さにのめり込んでいきました。そして、どのようにサービスが動いているのかというプログラミングに興味が深まっていきました。

ここを掘り下げるならアルバイトを辞めて、エンジニアの仕事をした方が早いと思い、ファンコミュニケーションズに入社しました。

ファンコミュニケーションズ時代について教えてください。

入社後、私は事業開発部という、4、5件の新規事業立ち上げを同時進行している部署に配属され、高い自走力とプロ意識を持ったメンバーと日々仕事に取り組んでいました。

当時の上司のワークスタイルには大きな影響を受けましたね。

昔話ですが、上司のデスクはいつも週刊誌やゲームが山のように積み重なっていて、昼過ぎに出社したと思えば1時間で退社されたり(笑)。
とにかく自由奔放な方だったのですが、その反面とても博識で技術や業界に詳しく、外部との繋がりも強かったため、部署問わず相談を受ける存在でした。
当然ながら、彼自身が事業を推進して成果を上げており、上司にも部下にも信頼されていました。型にはまってタスクをこなすのではなく、ことに向かって重要なポイントを見定めて成果を出し、周囲からの信頼を得る。そのスタイルがとてもかっこよく感じていました。
仕事とプライベートの境界線が薄く、楽しみながら成果を出すワークスタイルというものが自然に自分の仕事感に刷り込まれていった気がします。

現在も当時の上司や先輩方とは親交があり、起業されている方も多いので、時には相談させてもらっています。

その後、ユナイテッドに転職されていますね。

前職で一緒に開発していたPMの方がユナイテッドで新規事業を担当することになり、そのプロジェクトを一緒にやらないかと誘われて、転職しました。

入社後半年ほどでエンジニアチームのマネジャーになったのですが、マネジメントについて体系的に学んでいなかったので、本当に苦労しました(笑)。
当たり前ですが、メンバーごとに異なるパーソナリティを持っているのですが、その意識が低く、画一的な対応をしてしまっていたり、自己開示が不十分で関係性の構築ができていなかったりしました。メンバーそれぞれの個性と向き合って、心地よい環境を作る難しさに直面していましたね。

印象的だった出来事について教えてください。

あるコンシューマー向けのスマートフォンアプリの立ち上げの話ですが、アプリはリリース後、1年で1000万ユーザー、3年で4000万ユーザーという驚異的な成長を遂げ、アメリカのApp Storeランキングで2位になったんです。
爆発的なインストール数の増加にプロダクトが対応しきれず、サーバーがダウンし、三日三晩の徹夜の末、復旧させたこともありました。
周囲の優秀なシニアエンジニアと共に激動の日々を送っていました。
このプロジェクトのビジネスチームを率いていたのは、テックタッチの現CEOである井無田で、この頃から「この事業をどう伸ばしていくか」を一緒に考えていました。

開発が一通り落ち着いた後、海外にも事業を展開させることになった際、以前から新たな挑戦として「海外で働きたい」と上司に相談していたこともあり、幸運にもその機会を頂くことができました。井無田もBizチームの責任者として渡米し、2人で現地のベンチャー企業と協業して派生アプリを開発することになりました。

米国のベンチャー企業との開発で何か学んだことはありますか?

米国での事業は1年ほどで撤退してしまったのですが、現地の開発チームの人たちと隣り合わせで開発をする中で、開発チームのあり方の1つとして影響を受けたことがあります。

一人のエンジニアの業務範囲について、幅広いスキルを持ちフルスタックに振る舞うか、ある特定の領域に専念してスペシャリティを出すかすべきか、という議論がよくありますが、僕らが一緒にやっていた米国のチームでは、後者の自身の得意な分野を極めてチームに貢献することを重要視しており、その上で生産性の高いチームを作っていました。

意見は様々で、例えばフルスタックエンジニアが良いと言われていたりするのですが、各自が自分の役割を明確に定義して、その領域にしっかり責任を持ち、100%の力を尽くすことでより生産性の高いチームを作ることのベストプラクティスを見たような気がします。

テックタッチでもエンジニアを一括りにせず、スキルセットに応じた職能別で役割を定義して、それぞれの領域で専門性を発揮できる環境づくりを行っています。

子育てをきっかけに起業を決意。CEO井無田と再会。会社作りのビジョンが一致し共同創業。

その後なぜユナイテッドを退社し、起業することになったのですか?

端的にいうと、楽しみながら仕事をするために起業しました(笑)。

先ほどの米国でのプロジェクトが終了して帰国した後、新しいプロジェクトにアサインされました。このプロジェクトは既に売り上げも出ており、チームも出来上がっているタイミングで参画するのですが、常に0-1をやってきた僕は正直なところオーナーシップも持てず、楽しさを感じないまま仕事する日々が続いていました。

ちょうどその頃に結婚して子供が生まれ、ライフステージが変化していきました。当時の会社では男性で初めて育休を取得させてもらい、子供とゆっくり時間を過ごし、仕事と距離を置いたことで、初めて「自分にとっての仕事とは何か」を考えるようになりました。そこで、「楽しく仕事に励む姿を、我が子に常に見せていられることを条件に仕事をしよう」という結論を出したんです。楽しく仕事するには仕事へのやりがいは必要不可欠で、そのやりがいは事業に対する共感や、プロダクトに対するオーナーシップによって、左右されると思います。

これを最もコントロールしやすい方法は自分で起業することだと考え、起業が現実的な選択肢になっていきました。

もちろん不安はありましたが、生まれてきた子供も5、6年後には父親が楽しそうに仕事しているかどうかの判断ができる年齢になってしまいますので、時間的猶予もそれほどなく、起業への思いは高まっていきました。

元は別々で起業しようとしていたところ、なぜ共同創業に至ったのですか?

ユナイテッド社を退職後、井無田と飲む機会があり、彼も起業準備の最中であることを知りました。

井無田の事業について議論を重ねるうちに、米国で共に事業展開を進めていた時を思い出し、もう一度二人でチャレンジしようという話になりました。
井無田と共に起業を考えることができたのは、これまで一緒に経験を積んできただけでなく、起業に対するビジョンが重なっていたことも大きな要因でした。「こういう事業をやりたい」という事業ベースではなく、二人とも「こういう会社を作りたい」というビジョンが先にあったんです。

事業選定はどのように行いましたか?

40ほど事業アイデアを出し、先輩起業家に壁打ちをお願いし、最終的に3案に絞られ、自分たちが本当にやりたい事業がどれか悩んだ末、現在のテックタッチが提供する、システム活用のためのソリューションに決まりました。

日本はテックに対して理解がなくても許容されるカルチャーですが、米国やその他先進国では、PCが苦手ではやっていけませんし、許されない雰囲気があります。ですが、このカルチャーの違いが、個人の生産性に違いが生まれ、結果として企業の競争力の差に繋がっているのではないかと感じました。

もしこのテックに対する苦手意識が誰もストレスなく底上げ出来たら…日本社会全体で自分たちの貢献が生まれるんじゃないかと考えていました。

創業して始めの頃の日比野さんの仕事内容を教えてください。

はじめはCTO兼PdMという形で担当し、UI/UXは業務委託の方と分担して一緒に進めていましたね。もちろん開発業務も行っていました。
PdMの業務も分解すると、ユーザーのリサーチなどは井無田含めメンバー全員で行っていました。

採用はどのように進めていきましたか?

最初はSNSで呼びかけたり、知人に手伝ってもらったり、業務委託の方をフル活用し、同時に正社員の採用も進めていました。
我々のプロダクトは対象システムの上で動く特徴があるので、何かトラブルがあった際に、元のシステムに影響が出ると、インシデントのレベルが高くなってしまうため、経験豊富なシニアエンジニアの方に絞って採用していました。

ワンプロダクトでなく複数の事業を成功させ、再現性のある会社にすべく新規事業に専念。組織運営とオーナーシップの重要性

現在の日比野さんの仕事内容を教えてください。

現在は主に新規事業に時間を充てていて、既存のプロジェクトに関しては引継ぎ作業を進めています。割合としては、新規事業が全体の5割を占め、採用活動が2〜3割、残りは組織運営や制度の改善に時間を費やしています。

開発組織は大きく二つのチームに分かれており、1つは「Product Management」チームで、PdMが3名おり、CFO 兼 Head of PMの中出が責任者をしています。もう1つは「Engineering」チームで、2023年9月に初めて、VP of Engineeringが社内メンバーから誕生しました。私自身、完全に新規事業に専念できるよう進めています。

創業から5年経ちますが、この5年間で一番大変だった出来事はなんですか?

初めは、ティール組織やホラクラシー組織のような新しい要素を取り入れたフラット組織を作ろうと、試行錯誤しながら運用していたのですが、組織が成長してくるにつれ、その限界を感じるようになり、組織体制を変えました。事業が成長している中で、組織も変えていくのはやはり大変でしたね。

スタートアップとして、当初はフラットな組織を重視し、あるフェーズに来たらピラミット型に形を変えていくことは合理的であると思っています。もし次があるとしても、この流れは再現すると思います。

採用時はどのようなポイントを注意して見られますか?

開発業務そのものが好きかどうかは結構重要視しています。また、担当する開発業務の中で自分が担いたい役割が明確になっていることやその背景もしっかり聞かせてもらっています。

例えば、なぜフロントエンドを選んでいるのか、なぜバックエンドを選んでいるのか、といった質問を投げかけます。
自分が選択したロールに沿って、自分で目的を決め、自分で計画を立て、実行していく。
こうした行動ができるかどうかでオーナーシップがあるか図れると思っているので、自分事化できるかどうかを見極めています。

オーナーシップを保つために何か工夫されていることはありますか?

例えば、マネージャーの選任のプロセスなのですが、僕たちは3か月に1回、マネージャーを立候補制にし、立候補した人の中から選抜しています。

オーナーシップを持てるかどうかで最も重要な点は「本人の意思によってその役割を担っている」という事実だと思っています。そのため、わかりやすくマネージャーは立候補制で決めることにしています。
もちろん、マネジメントは周囲のメンバーに影響を与える重要な役割なので、立候補後には選考フローを設けて、合格者のみ引き受けてもらうようにしています。

選考に関して少し話すと、入社時の選考と同じような緊張感を持ち実施しています。もし見送りとなる場合も、建設的なフィードバックをお伝えできるように心がけています。

また、立候補者の思考やキャラクターを踏まえて、そもそもどういったキャリアパスが向いていそうかを提案することもあります。せっかくご縁があってお会いできた方ですから。

日比野さんが今後のテックタッチで成し遂げたいことを教えて下さい。

事業の面でいうと、私たちはまだワンプロダクトなので、今後複数プロダクトをもちたいと思っています。1つの事業を作ったことがあるのと、複数の事業を作った会社って見え方が違ってくるので、事業やプロダクトを再現性を持って生み出せる、そんな会社にしたいです。

もう一つは社員から、「テックタッチで働いて良かった」と言ってもらえる会社にしたいなと思っています。それが創業時からの変わらぬ思いであり、成長でき、リスペクトし合える仲間がいる環境を、これからもつくっていきたいですね。

 

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