IT×ファッションで新しいあたりまえを創造してきたエアークローゼットのCTOが語る、技術の活用法やリーダーの在り方

日本初・国内最大級の女性向け月額制ファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」を運営する株式会社エアークローゼット。今回は、同社で執行役員 CTOを務める辻 亮佑氏に話を伺いました。

辻 亮佑 |株式会社エアークローゼット 執行役員 CTO

大学卒業後、エンタープライズ向けの開発会社に入社。インフラやDB、バックエンド、フロントエンドなど多岐にわたる開発に従事。2012年、楽天株式会社に入社。フロントエンドに特化して新規立ち上げビジネスの設計や開発、チームマネジメントを担当。2015年、株式会社エアークローゼットにジョイン。執行役員 CTOとして、デザイン・開発チームの統括、ビジネス要件のシステムへの落とし込みを行っている。

株式会社エアークローゼットについて

御社の事業内容を教えて下さい。

弊社は、女性向け月額制ファッションレンタルサービス「airCloset」を運営しています。WEBやアプリ上でご自身の体型や洋服のお好みなどの情報をご登録いただくと、スタイリストがコーディネートしたその方に合った洋服が届きます。

サービスリリースから5年が経ちますが、現在、登録者数が30万人を突破するなど、仕事や家事に忙しい女性を中心にご利用いただいております。

また、スタイリストがお客様ごとに似合うコーディネートを提案するパーソナルスタイリングを直接体験していただける実店舗の「airCloset×ABLE(エアークローゼットエイブル)」、スタイリストによるパーソナルスタイリングとご自宅での試着・購入体験を組み合わせた提案型ファッションEC「airCloset Fitting(エアクロフィッティング)」を展開しています。

我々は、スタイリストがコーディネートしたお洋服を楽しんでいただくという、新たなお洋服との出会い体験を提供するように、様々なライフスタイルの忙しい女性にワクワクするファッションとの新しい出会いをお届けしたいと考えています。

はじめは、ずっとエンジニアを続けるつもりはなかった

続いて、辻さんのキャリアについて伺います。大学時代は法学部に所属していたそうですが、何故エンジニアになったのでしょうか?

学生時代は、法律、政治、日本史などが好きな文系人間でした。大学では法律を学んでいて、将来は法曹界へ入ろうと思っていましたね。けれども、実際に現役の弁護士や裁判官の方にお会いして話を聞く機会があったのですが、その時、法廷は、何かトラブルが起こった時に解決する後処理の場だと感じました。それに関して、そのとき私はそもそもそういったトラブルが起こらない世界を創っていきたいと考え、法曹の道はやめようと決意しました。

そうは言っても、働かなければ生きていけないので、就職活動をしてエンタープライズ向けのIT開発会社から内定をいただきました。就職先は、ITの仕事内容云々よりも、一緒に働く人や環境で決ましたね。

その後、入社してからどのようにエンジニアのキャリアを積んできたのでしょうか?

私はプログラミングについて元々全く知識がなかったのですが、実際やってみると自分の書いたコードが書いたとおりに動作することが非常に面白いと感じました。

そしてターニングポイントになったのが2年目に担当した案件です。この案件は様々なトラブルもあり残業も非常に多いプロジェクトでしたが、それもあってエンジニアとして如何に効率よく、品質高く、かつ周りを巻き込んで開発を進めることが重要かを強く意識させられたプロジェクトでした。

また忙しいプロジェクトにも関わらず、非常に楽しく仕事ができたプロジェクトでもありました。それは常にリーダーの方がメンバーを鼓舞し、引っ張ることを意識されていたからです。そのためこのプロジェクトは、自分のエンジニアとしての能力だけでなく、チームで開発を進めていくことも学べたプロジェクトだったなと感じています。

一方で、元々文系からエンジニアになった私は、エンジニアとしての経験を積んだのちにITコンサルタントになるキャリアを考えていました。

けれど、丁度3年目の時、あるエンジニアとの出会いが、私のその後のキャリアに影響を与えました。その方のエンジニアとしてのスキルは、当時私がどう頑張っても足元にも及ばないと感じました。私は自分がエンジニアとしてまだ全く至っていないのにここでエンジニアを辞めるわけにはいかないと感じ、もっとエンジニアとしてのキャリアを極めたいと思うようになりました。

英語と技術のスキルアップを目指し、楽天へ入社

その後の転職先に、楽天を選んだ理由を教えて下さい。

将来的には、海外へ行くか、もしくはスタートアップにジョインするかどちらか経験したいと思っていました。丁度、その頃楽天の社内公用語が英語になった時期だったこともあり、技術と英語の両方スキルアップできる点を魅力に感じ、楽天を選びました。

楽天ではどのような学びがあったのでしょうか?

1社目は小さな会社だったのに対し、楽天は非常に規模が大きな会社だったので仕組みがすごいなと思いました。

フロントエンド周りの新規立ち上げビジネスの設計や開発に携わっていましたが、中でも、楽天がViberを買収した時に、イスラエルへ1ヶ月ほど行った出来事が印象に残っています。

イスラエルは「第2のシリコンバレー」と言われており、既に、Uberのようなサービスが流行っていたり、レストランとオンラインで共通のカードが使えたりと、IT化されていました。街の風景だけでみると日本の方が発達しているように見えますが、ITの分野ではイスラエルの方が発達しているということに、ただただ驚きましたね。

エアークローゼットへジョイン。リソースが足りない中で進めたリリース

その後、株式会社エアークローゼットにジョインするまでの経緯を教えていただけますか?

代表の天沼(エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO)も私と同じ楽天出身だったことがきっかけです。といっても一緒に仕事をしたことはなく、ただ部署の飲み会でいつも最後までいるなとお互い認識していたような関係でした(笑)それから、天沼が起業のために楽天を辞めるタイミングで、一度二人で飲みに行こうという話になりました。

その時、天沼からエアークローゼットの原型の話を聞いたり、お互いのキャリアや仕事観の話で非常に盛り上がり、私は「何か私に出来ることがあったら手伝いますよ」と話をしました。

実際に天沼が創業した後、私は楽天に勤めながら、週末を利用してエアークローゼットのインフラ周りの整備やティザーサイトの開発を手伝ったりしていました。

また私自身も、楽天のような大手へジョインしていると、1人でインフラからバックエンド、フロントエンドまで作り上げる経験はなかなか積めないため、エンジニアとして1から全てつくる経験をしたいと考えていました。まさか創業間もないスタートアップにジョインするとは思ってもいませんでしたが、もともとスタートアップに興味を持っていましたし、天沼とも一緒に働きたいと思っていたので、2015年3月にエアークローゼットへ正式にジョインしました。

辻さんがジョインした時、エアークローゼットの構想はどこまで決まっていましたか?

既に、現在のコンセプトである「ファッションレンタル」「プロのスタイリスト」「サブスクで提供する」という大枠は決まっていました。

もともと天沼は、楽天時代、楽天のグローバル展開の立ち上げからマネージャーとして活躍していましたし、ITコンサルの経験もあるのでITを使った仕組化は非常に得意としていました。そのため、起業当時から、中長期の会社の成長戦略や100人規模に成長した時の組織構築まで構想を練っていましたね。

創業当時の開発組織について教えて下さい。

創業後しばらくは、私1人と業務委託2人の計3人で開発しました。

エアークローゼットの原型のシステムはフィリピンのオフショアで突貫で開発したシステムでしたので、作り直さなければいけない部分があり、最初はとても苦労しました。

もちろん最初から拡張性など全てを考慮して作ることがベストだと思いますが、如何せん、スタートアップは、人手も足りませんし、資金はお洋服の購入に充てる割合が高いので資金も不足しています。当時、その中では、最良の選択は出来ていたのではないかと思います。

2015年2月、「airCloset」リリース初期はいかがでしたか?

最初のKPIとして登録者2000人を目標に掲げていたのですが、ありがたいことにパワーブロガーの方が自発的に弊社サービスを取り上げてくれて、すぐに達成してしまいました。お金をかけてPRしなくともローンチ前にSNSで拡散したり、テレビ取材に繋がったりしまして、あっという間に2万5000人の方にご登録いただきました。

一方で我々は、一気に全員へサービスを提供できるほど、体制が整っていませんでした。ネットで完結するようなビジネスとは異なり、我々の場合、お洋服を購入する資金、倉庫のキャパシティ、スタイリストの確保なども考慮する必要があるので、順次サービスを提供できるよう急ピッチで体制を整えていきました。

レンタルの特性から生まれる課題にどう技術で解決していくか

現在のエンジニア組織はどう変わりましたか?

今現在は主に新規開発をするチーム、サービスを運用するチームの2チーム体制にしています。ただ、どちらのエンジニアもフロントエンド、バックエンドといった区別は一切おいていません。それは2つの理由からです。

まず1つ目は、機能要件を満たすためだけの開発ではなく、プロダクトを成長させるための開発に責任を持って取り組んでもらいたいためです。領域で分断してしまうとどうしても技術の部分だけがフィーチャーされてしまいがちになるため、あえて広い領域を見る視点を持ってほしいと考えています。

2つ目は、エンジニアとしての視野が広がるためです。短期的にはそれぞれに集中した方が成長できるかもしれませんが、結局良い設計でシステムをつくっていくためには、必ずどこでその処理をするべきかを考える必要があります。そのときには確実にどちらの知識・経験も求められるため、エンジニアのキャリアにとってもどちらの経験も積むべきと考えています。

現在の組織課題に対して、技術的な視点でどう取り組んでいますか?

1つ目は、スタイリストのお洋服選びの効率化です。現段階では、スタイリングシステム内のアイテムレコメンドや検索の精度の向上させることで、お客様の満足度を高められるようにしています。

2つ目は、React Nativeを使ったNativeアプリ開発です。少ない人数でサービスを広げていくために、エアークローゼットでは初期の頃からReactNativeを用いて効率よくNativeアプリ開発を行ってきました。

3つ目は、返却されたお洋服の在庫管理です。売ったら終わりのECとは異なり、返却されたお洋服を管理する必要があるため、非常に労力もかかります。そのため詳細はまだ伏せますが、昨年お洋服をデータで管理するシステムを作っています。

エアークローゼットの採用やピープルマネジメント

エンジニアの採用活動はいかがでしょうか?

現在、採用は、人事担当者がメインでやってくれていますが、エンジニアに限らず、弊社は必ず代表とグループ長が面接します。それは、我々エアークローゼットはメンバーを単なるリソースとしてではなく、ひとりひとり向き合って一緒に成長していける人であるかを大切にしているためです。

従って、過去にエンジニアのスキルは良いけど、行動指針とマッチしないという理由で不採用にしたことは山ほどありますし、一方で、現時点でスキルは足りなくとも、行動指針にマッチしたら採用したという事例もあります。

辻さん自身、この会社に入って初めてピープルマネジメントを経験されたそうですが、実際どうでしたか?

難しいことばかりです(笑)チーム分けやコミュニケーションの取り方など、日々苦労しながらやっています。

何か壁にぶち当たった時は、CTOの横の繋がりで相談したり、AWSがやっているCTOサミットへ行って他社の事例を学んだりしています。でも、やはり一番の相談相手は、代表の天沼ですかね。最近では、相談する時、「きっとこの答かえってくるだろう」と予想しながら聞きにいきますが、その答えが返ってくるので、内心良かったと思いますね(笑)

リーダーの育成はどうされていますか?

エンジニア組織も、リーダーとテックリードの役割は分けて考えています。何故なら、リーダーに求めることは、技術として優れていることより、前述したような結節点になれるかというリーダーとしての適性を持っていることが大事だと思っているからです。会社全体として、リーダーは、会社とメンバーの結節点になれる人を選ぶようにしています。つまりは、「会社の理念や文化を理解し、それを自分の言葉でメンバーに伝えられる人」です。エンジニアに限らず、「リーダーは明日違う部門になってもリーダーをできる人がやる」という条件になっています。

部署間で意見が異なる時はどう対処していますか?

どのグループも、自分たちのKPIに対して本気で取り組んでいるとやはり意見がぶつかることもあります。その中で、私自身「会社として何故今それが必要なのか」という視点で考えて話しをしますし、他のグループ長も同様の視点で考えているため、最終的に揉めることはほとんどありません。

今後、エアークローゼットで成し遂げたいこと

最後に、今後エアークローゼットが目指していきたい方向性や辻さんが成し遂げたいことを教えて下さい。

私は、ビジネスの力ってすごいなと感じています。実際、エアークローゼットも何もないところから立ちあがり、スタイリストが集まってきて、それを使うお客様が生まれてきて、世の中に新しい消費の流れを作り出すことができました。このように私は、ビジネスの力を使えば、世の中にどんどん新しいものを生み出すことが出来ると思っていますし、それが非常に面白いことだと思っています。エアークローゼットは、「ワクワクが空気のようにあたりまえになる世界へ」をビジョンに掲げていますが、今後も、ファッションを通してワクワクするような世界を作りたいと思っています。

短期的には、エアークローゼットそのものの事業で、きちんと数字として継続的な黒字化まで持っていくことですね。サービス自体成長していてスピードも早いため、それらに対応できるようエンジニアを積極的に採用しています。現在、「airCloset」以外の事業も成長してきているので、それぞれの会員の基盤を組み合わせるというような大きな規模感の仕事を出来ると思うので、なんでもやりたいというエンジニアさんは是非ご応募下さい!

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