CTOが未知の環境でもエンジニア採用を成功させるには|塩谷 将史

前回のコラムでは、CTOがエンジニア採用を成功させるために、必ず行うべき準備についてご紹介しました。具体的には、まず前提として自社が置かれているフェーズからどのような採用をすべきかを明確にすることです。そして採用活動にあたっては採用をしている背景、採用を決定する価値観、そして採用後に何を達成してほしいのか、をジョブディスクリプションと言う形で候補者に伝えることが重要です。

この内容は私自身の過去の経験を振り返ってまとめた内容です。より具体的に、リアリティを持って参考にしていただくために、今回のコラムでは実際どのように私が採用を行っていたのか、という事について書きたいと思います。私自身が経験してきたことは、必ずしも網羅的・一般的ではないかもしれません。ですが、1つのリアルな具体例として参考になる部分が少しでもあれば幸いです。

未知の環境で、いかにして採用を成功させるか?

初めて自分の責任でエンジニア採用をした経験は楽天時代に赴任したシンガポールでした。

いきなり特殊な状況の話なのでどこまで皆さんの参考になるだろうか、と思いましたが、どの会社どのCTOも自分の置かれる状況というのは常に唯一無二です。なので、海外であることを除けば皆さんが直面することとなんら変わりなく、これも1つのリアルな例だと思い、ご紹介することにします。

それまで採用に関わった経験は、日本での採用面接と合否の決定、そして上席の次面談者へ申し送りをし、自分のチームに配属してほしい場合は社内でその交渉もする、という典型的な大企業の中間管理職としての経験です。努力することで良いエンジニアが取れるわけでも、努力しないことで良いエンジニアが取れないわけでもなく、流れの中で自分の役割を遂行していただけの状態です。

その状況から一人、海外の新しいオフィスに送り出され、組織の立ち上げを任されました。当時誰かに助けてもらったことと言えば、十分な予算を頂いていたことと、現地での人材業界経験があった同僚に現地のエージェントをつないでもらい、現地の商習慣や労働文化を教えてもらったことくらいです。

何のためにどのような人、チームが必要か?

当時どのようなフェーズだったかというと、次のような状態です。

  • 大企業の新規事業(のようなもの)で、予算がそれなりにある
  • とにかく早く開発でアウトプットが出せる事が求められている
  • 強烈な企業文化がすでにある

つまり、スタートアップのように社員エンジニアを採用することを躊躇する必要はなく、やることもすでに決まっているので必要なエンジニアのスペックなどもわかっています。一方で、立ち上げメンバーとは言え強烈な企業文化は存在していますので、その点を前提にする必要もありました。
とにかく、安定して開発ができる組織を作ることが最大の目的なので採用の方向性は「安定した開発チームを構成できるエンジニアを採用する」でした。

未知の環境に適応するには、自分の目と耳でリアルに触れる

当時採用を始める際、右も左もわからない状態でしたので、とにかく動かないと始まらない、やりながらチューニングしていこう、と思いエージェントに人材要件を伝え、ひたすら紹介をしてもらいました。数日のうちに十数人のレジュメが送られてきます。よくわからないのでよっぽどズレている人以外はほぼすべて会いました。多いときには1日に4〜5人と面接し、最初の4人を採用するまでに1ヶ月ほど、見たレジュメはおそらく100人を越えていたと思います。

面接の中で候補者からよく聞かれる質問がありました。

「上司は誰ですか?」
「契約社員ですか?正社員ですか?」
「いずれプロジェクトマネージャになりたいがなれますか?」
「テストや運用はやらなくてもいいですよね?」

1〜2人から聞かれるだけならあまり何も感じませんが、かなり多くの割合でこれらの質問を受けました。これらの質疑や他の人からの情報などから、これらは以下のような状況を反映した質問だと徐々に理解出来てきました。

「上司は誰ですか?」
→「誰の言うこと(だけ)を聞いていればよいですか?」
→「誰が私の給料を決めますか?」

「契約社員ですか?正社員ですか?」
→現地ではエンジニアは1年か2年くらいの契約社員で採用されているケースが多い。「契約延長してもらえること」がエンジニアとして評価されることの証、逆に延長されないということは会社の状況にもよるがあまり評価されていないということ。多くの若手エンジニアが契約社員であった。

「いずれプロジェクトマネージャになりたいがなれますか?」
→エンジニアが更に給料を上げるには技術を磨く事ではなくポジションを上げること。そして、エンジニアが盲目的に目指す次のポジションはプロジェクトマネージャ(ここは日本のSIerに似ている)。「マネージャ」という名前がつくポジションには皆敏感に反応する。

「QAや運用はやらなくてもいいですよね?」
→自分はエンジニアだからそれ以外のことはやらない。やってもキャリアにならないし給料も増えない。そういう事をやらなくてはならない会社には入りたくない。

採用をしている背景と価値観を明確にすることで候補者をスクリーニング

何十人とこのような会話をした結果、ある程度は現地の価値観を受け入れつつも、このようなメンバーでチームを構成する事に違和感を持ちました。このまま面接を重ねていても良いエンジニアが取れる気がしなかったですし、よいチームを作れる気がしませんでした。そこで、どうせなら徹底的に逆張りで採用しようと決め、以下のような採用の背景と価値観が分かる内容をジョブディスクリプションに明確に含め、面接でもとにかく冒頭で説明をしました。無駄な時間を省くためです。

  • 楽天は日本で1番のECの会社ですが日本だけでしか成功していない。事業のグローバル化を目指してシンガポールでグローバルプラットフォームを開発することになり、その立ち上げメンバーを募集しています。
  • 立ち上げメンバーなので、仕組みやプロセスはまだ整っていません。自分の決められた役割だけをやれば良いわけではなく、何をすべきか、どうすべきかを周囲の人とコミュニケーションをして考えていく必要があるので、当然チームワークが重要、自分の役割を飛び越えて行くことが期待されます。
  • プロジェクトマネージャかどうか、は重要ではなくそのような動きをとって成果を上げた人が評価されます。
  • 楽天は自社でサービスを運営しているのだから、サービスを開発・運営するのに必要なことはすべて自分達でやる必要があります。システム運用、トラブル対応なども当然自分たちで行います。

実はこの内容はすでに面接の中の会話で相手の反応を見ながら検証をし、自分なりに「こういう内容に反応するエンジニアを採用したい。少ないけど必ずいる」という確信がありました。

結果的に採用した初期メンバー4名はこの内容を逆に魅力に感じて入社してきてくれました。もちろんすべて想定通りではなかったものの、7年経った今では複数のチームのマネージャとして活躍している方、日本へ短期移籍してプロジェクトリーダとして大きな成果を挙げた方など、非常に良いメンバーを採用できたと今振り返っても思います。

終わりに

少し環境は特殊ですが、自社のフェーズから採用の方向性を明確にし、採用の背景や価値観を明確にすることで適切な候補者を見つけ出す、というプロセスは共通するものがあります。また、採用未経験者にとっては何事も初体験、未知の体験になります。様々な参考にできる情報があると思いますが、大事なのは自分の目と耳でリアルな体験をすることです。

次回はまた、私の別のエンジニア採用の体験の話をしたいと思います。

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