CTOに求められる「マネジメント」を身につけるコツ Vol.2|塩谷 将史

前回コラムではCTOに求められる「マネジメント」にはどのようなものがあるのか、をご紹介し、技術に関するマネジメント以外にも、経営・事業戦略、人・組織、プロダクトマネジメント、プロジェクトマネジメント、イノベーションを挙げました。ではそれらはどのように身につけていけばよいのでしょうか。もちろんすべて経験して初めて「身についた」と言えるでしょう。しかし、少しでも効率よく身につけるためにどうすればよいのか、というコツを恥ずかしながら私の経験になぞらえてご紹介したいと思います。

私自身がどのように「マネジメント」身につけてきたか

みなさん、プログラミングや新しい技術を学ぶ際、どのようにして習得したでしょうか。多くの方はそもそもその技術に強い興味があって学ぶか、現場でその技術が必要になって学んだことでしょう。座学で始めたけど結局は実際の現場で使ってみて、様々な失敗や周囲の先輩などから教えてもらったり真似したりすることで習得し、上達してきたことと思います。プログラミング本を読むにしてもいわゆる「写経」から始める、つまり動くものをそれ通りになぞることで「動いた!」という結果とともに学ぶスタイルだと思います。

ではマネジメントを学ぼうとした時、どのようにすればよいのでしょうか。私自身がやってきた方法は、「座学+実践によるPDCA」です。体当たりで実践していく中で壁にぶつかりそれを解決するために座学で学ぶやり方もありますし、一方座学で学んだことを、それが活用できるシーンで実践に適用していったこともあります。
それ以外にも人に相談したり、人のやり方から良いところを吸収することもあります。そのようなお手本になる人が周りにいる環境ならよいですが、いない場合もあるので、安定したやり方とは言えません。なので「座学+実践によるPDCA」を中心にご紹介します。

私がマネジメントを身につけてきた経験を以下の4つのフェーズでご紹介します

  1. エンジニアからプロジェクトマネージャへのステップアップ
  2. マネジメントのベースとなるコミュニケーション力と会計知識
  3. 経営全般 : 起業を目指して学び始めた経営
  4. プロダクトマネジメント : プロダクトと組織の垂直立ち上げ

プロジェクトマネジメント:エンジニアからプロジェクトマネージャへのステップアップ

26歳のとき、Webサービスの受託開発をするベンチャー企業でエンジニアからプロジェクトマネージャになり、日々の開発の業務も行いながら複数のプロジェクトの管理、顧客との折衝や営業提案を担当するようになりました。その中で様々な壁にぶつかりました。それも当然で、今までやった事のない仕事ですし、創業6年目のベンチャー企業でしたので丁寧に教育指導されるわけでもなく、まさにストリートファイト。今思えばこれが私の「マネジメント」への初めての挑戦でした。

それまで私は4年間ほぼ開発のみをしてきました。小規模なチームで比較的大きな仕事を任されていたため、サーバ環境のセットアップ、フレームワークの選定、開発、運用とエンジニアとして幅広く様々な仕事をしていました。そしてその延長で、プロジェクトマネジメントを任されるようになりました。

「座学+実践によるPDCA」の実行

当時はプロジェクトマネジメントとは何をするべきなのかも分からず、誰かが教えてくれる環境でもなかったのでとにかく自分で勉強するしかないと、色々調べた結果PMBOK/PMPの勉強をすることにしました。日々悩みながら取り組んでいることがしっかりと体系的に説明されていて、現場で場当たり的に業務をこなすこととは違った視点を身につけられそうだと思ったことが選んだ理由です。

自分の環境・状況に当てはめて実践・チューニングし、うまくいくものは残し、うまく行かないものは捨てる、ということを繰り返したことで、「座学+実践によるPDCA」を高速で実行し、身につけることができました。

この経験から、座学→実践→チューニング・取捨選択→型化、というプロセスによって未経験の事もどんどん吸収して自分のものにしていける、という感覚を得ました。

マネジメントのベースとなるコミュニケーション力と会計知識

実はここでいわゆるプロジェクトマネジメントだけではなく、もう少し幅広く学んだことがありました。1つは顧客との折衝(営業提案や継続的な関係構築)、1つは管理会計です。

営業プロセスから学ぶ「コミュニケーションスキル」

開発もプロジェクトマネジメントはどちらかと言うと内向きの、ものづくりをするための仕事です。しかしいわゆる営業的な仕事はまた大きなチャレンジでした。ここでもとにかく実践しながら様々な書籍を読み漁り、良さそうなやり方を試し、チューニングしていきながら自分のものにしていく、という方法をひたすら繰り返していました。正直、営業に向いているタイプではないし特にやりたいことではなかったのですがこのプロセスを経ることによって、「人とのコミュニケーション」のスキルが向上していった感覚を持ちました。結果的にこれは組織マネジメントや採用など、マネジメントとして必要な要素の下地になっています。内向きな仕事だけでは得られなかったスキルを身につける良い機会になりました。

管理会計を理解することで、意思決定にROI視点を取り入れる

もう1つの管理会計はまた全く違った観点でのスキルです。当時、営業的な仕事とプロジェクトマネジメントの両方において、「このプロジェクトが利益をあげているかどうか、赤字になっていないか」ということを常に求められていました。1つのプロジェクトでそれを考えることはそこまで難しくないかもしれませんが、複数のプロジェクト、人、部署が入れ子になって大きくなっていくと、管理をするにもコツが必要です。また、それらはプロジェクトで完結するわけではなく「会社」という1つの組織としての数字として見る必要も出てきます。そこで、そのような仕組みを理解・実践したいと思い、管理会計の勉強をはじめました。

これは考え方・やり方を知って適用さえすれば程度の差はあれ誰でもできる事です。管理会計の考え方は非常にシンプルかつ強力で、これによって「今やっていることはROIが合うのか合わないのか」ということを瞬時に考えられる様になりました。財務会計だと複雑すぎてタイムリーな判断をすることができず、様々な数字を正しく集計しないと正しい計算ができません。財務諸表を作成したり決算報告をするわけではないですし、「1ヶ月後会社に現金はどれくらい残るか」というキャッシュ・フローの計算をするわけでもありません。
管理会計を理解することによって、CTOとして日々の現場の意思決定にROIの視点を取り入れ、スピーディに正しい判断を下すことができるようになっていきます。

起業を目指して学び始めた経営

次に私が学び始めたのはまさに経営でした。エンジニアからプロジェクトマネージャへ、そして28歳で楽天に転職して大きな事業会社でサービス責任者として成果を出そうと必至で働いていた中で、漠然と起業したいと考えるようになりました。しかしそもそも自分は何をしたいのか、何ができるのかがあまり明確でなく、一歩踏み込めませないまま、もっといろいろな経験を積んで5年後の35歳で起業しよう、と決めました。

業務上で経験できることはたくさんありましたが、それだけではなく何か自分で学べるものを、と思い様々なビジネス書を読み漁りました。量を多く読んでいくと、だいたいどれも書いてあることは同じだな、という感覚を持てるようになり、同時にビジネス書を読むことに飽きてきました。同時にビジネスやマネジメントを体系的に学んでみたいと思うようになり、MBA取得も考えましたが、当時の仕事が面白くやりがいもチャンスも大きかったのでそこを離れることは考えにくく、とりあえずMBAの書籍を色々手にとってみました。しかし、MBAはそもそも座学の為というより講義を受けるのが前提で、いまいちテキストの内容がアタマに入ってきません。
そんな中で『中小企業診断士』という資格があることを知りました。体系的かつコンパクトに経営に必要なことが学べそうな内容だと思い早速勉強をはじめました。目標があったほうがメリハリもつくので資格取得を目指して平日3時間、週末10時間の勉強を半年ほど続けていました。最終的には日程が合わず受験はしませんでしたが、ここで勉強した内容は今までのキャリアにおいて非常に良い下地となっています。

『中小企業診断士』の内容はどのようなものか、というのは調べればすぐに分かることなので割愛しますが、ここで学んだことで、今でも役に立っていることを挙げてみます。

経営戦略論いわゆる一般的な経営やマーケティングのフレームワークなどです
組織論こちらもフレームワークや、組織構造のあり方とその課題など
経済学こちらは大学で習うレベルの内容のおさらいですが、社会経験を積んでから学びなおしてみると非常に面白く、マクロ・ミクロ両方において経済原理を実務に結びつけて考えることが出来て、改めて勉強し直してよかったと思いました
経営法務会社経営するにあたって細かいことは各専門家におまかせしますが、少なくとも制度やルール、考え方としてそういうものが存在する、ということを知るだけでもショートカットできることは多いです
財務会計もちろん財務の専門職にはなりませんが、M&Aや事業譲渡、スタートアップでは特にエクイティファイナンスやストックオプションの制度設計は避けて通ることが出来ず、例えばバリュエーションがどのように計算されるのか、など基本的な知識を身につけることができました

ここまで来ると本当にCTOが学ぶ必要があることなのか?と思われるかもしれません。確かにそのとおり、これらすべてを何十時間、何ヶ月も書けて学ぶ必要はないかもしれません。これらは座学ですべてを学ぶ必要はなく、実際に自分にはこういう点が足りないな、と思った時にそれを学べば良いと思います。そのためのリファレンスとして、中小企業診断士のテキストは内容がコンパクトにまとまっていて、さらにビジネス書と違って著者のバイアスがあまり入っていないのでとても便利です。(余談ですが、非エンジニアの方からITについて網羅的に学ぶにはどうしたらよいか、と聞かれた時には中小企業診断士の「経営情報システム」のテキストを一読することをおすすめしています)

何事も実践が重要

当然ですが座学だけでは頭でっかちになってしまいます。これらを勉強したからと言ってマネジメントができるようになるわけではありません。理論を正論のように語ったり、理論をそのまま当てはめたりするだけでは実際の業務において成果を出すことは難しいと思います。
先述したとおり、座学から実践へ適用してチューニングしながら自分の型にしていく、というプロセスが最も重要です。私の場合は起業を目指して勉強を始めたものの、実際には日々の業務に役立つ内容が非常に多く、常にこのプロセスを繰り返しながら、メガベンチャーの楽天でのサービス企画開発や50名程度の組織マネジメント、海外での組織とプロダクトの垂直立ち上げ、そして共同創業者としてのスタートアップの立ち上げなどをやってきました。

いまCTOとして、またはCTOを目指していくにあたって、具体的な課題を感じているのであれば、その課題に近い科目を選んでまずは勉強を始めてみてはどうでしょうか。または、具体的な課題はないけどとにかく技術以外のところでステップアップしたい、と考えている方はざっと全体を眺めてみて興味を持ったところを読み進めてみる、という感じが良いのではないかと思います。

今回のコラムは私自身の経験談から「マネジメントをどのように身につけてきたか」をお話しました。1個人の経験なので参考になる部分、ならない部分が様々だと思います。
次回のコラムでは今回書ききれなかった残りの内容、プロダクトマネジメント、イノベーションについてご紹介したいと思います。

この記事を書いた人
塩谷 将史
MOON-X株式会社 Co-founder CTO/ OCTOPASSエバンジェリスト
塩谷 将史
大学卒業後、Full Stack Engineerとして6年間様々なシステム、ネットサービスの開発に従事。 2008年に楽天に入社し、主に楽天の広告プラットフォームやAd Tech・Big Data系システムをプロデュースし、その開発組織のマネジメントも担当。 2012年シンガポール支社立ち上げに参画し、3年間でシンガポール・日本・インドの3拠点で約100名の多国籍・多拠点エンジニア組織を0から立ち上げ。グローバル広告プラットフォームの企画、開発、導入も指揮。 楽天退職後、2016年にアペルザを共同創業しCTOに就任。製造業に特化したサーチエンジン、マーケットプレイス、クラウドサービスなどを立ち上げる。2019年7月にアペルザを退任。 2019年8月にD2Cのマルチブランドを展開するMOON-Xを共同創業しCTOに就任。 本業のかたわら、CTO養成講座OCTOPASSのメンター/エバンジェリストを務める。