CTOに求められる「マネジメント」を身につけるコツ Vol.3|塩谷 将史

CTOに求められる「マネジメント」を身につけるコツ Vol.3

前回コラムではCTOに求められる「マネジメント」をどのように身につけたらよいのかについて、少しでも皆さんの参考になればと私の経験をご紹介しました。今回も引続き、前回書ききれなかったプロダクトマネジメントについてご紹介します。
CTOがプロダクトマネジメント、というと少し違和感があるかもしれませんが、立ち上げ時や組織が小さいうちは、CTOが積極的にプロダクトマネジメントを意識することが重要だと考えています。また、立ち上げ期は技術的なイニシアティブだけではなく、プロダクトと組織を同時に立ち上げていく役割もCTOが担うことが多いと思います。これらについて私の経験をご紹介しながら重要だと思うポイントをご紹介します。

CTOにとってのプロダクトマネジメント

プロダクトマネジメントとは何か

プロダクトマネジメントやプロダクトマネージャはプロダクトやサービス、会社の規模や業態によって担当する範囲は様々です。しかし共通することは、「何を創るべきか」を正しく判断し、エンジニアと一緒にそれを創りあげてデリバリーする事、そしてそれを成長させていくことでしょう。プロダクトマネージャはプロダクトにおける「ミニCEO」と言われるくらい重要な役割です。立ち上げ期や規模の小さな段階で、CTOがこの役割を担ったりサポートしたりすることが成長の初速をつける事、その先の成長期への下準備で非常に重要になります。

まず、CTOとしてプロダクトマネジメントとはどういうものなのか、を知る必要があります。今ではプロダクトマネージャという職種が日本のテック業界にも根付きつつあり、多くの書籍やブログがあるのでそれらを参考にすれば良いと思います。今でこそそのような状況ですが、私が最初にプロダクトマネジメントを意識し始めた頃はそこまで参考にできる情報がありませんでした。

ちょうど2008年に楽天に入社し、プロデューサ(プロダクトマネージャのようなもの)として広告プラットフォームを担当していたときに、プロダクトはどういう考えに基づいて創っていけばよいのか、どのような判断基準を持つべきなのか、など色々調べて行く中で出会ったのが、eBayのプロダクトマネジメント責任者などを担った方が書いた『Inspired: How to Create Tech Products Customers Love』という書籍でした。ずばり、「顧客が愛するプロダクトをいかに創るか」というタイトルです。2010年頃有志の方々が日本語訳を書かれており、それと合わせて読み込みながら日々の業務の参考にしていました。今でもこの表紙を見ると当時の思いがこみ上げてきます。昨今のプロダクトマネージャ界隈の盛り上がりもあってか、最近正式な日本語版として『INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント』がリリースされたようですので、まずプロダクトマネジメントとはどういうものなのか、というのを知るきっかけとして読んでみることをおすすめします。

CTOが意識すべきプロダクトマネジメント

CTOが意識すべきプロダクトマネジメントは、いわゆる一般的なテック企業のプロダクトマネージャがすることに比べたらもう少し原始的、小規模かもしれません。多くの場合CTOが直接プロダクトマネジメントを担当するのは、プロダクトやサービスの初期フェーズのことが多いと思います。ですが、規模が大きくなり専任のプロダクトマネージャがいたとしても、CTOがそれと同じ思考・視点をもって、更に技術的な背景も理解した上でプロダクト開発をリードしていくことができれば、プロダクト開発の効率は飛躍的に上がることでしょう。

では、CTOとしてプロダクトマネジメントのどのような点について意識しておくべきなのでしょうか。特に初期にCTOがプロダクトマネジメントの観点で注意した方が良い点をいくつか挙げてみます。

  1. 「なぜ作るのか・必要なのか」を掘り下げ、理解する
  2. 今実現すべき事とスピード感、それに対して将来のプロダクトロードマップをすべて考慮した上で、設計・実装方針を決める
  3. マーケティングなどに必要な数値が常に計測可能な設計・実装を考慮する

プロダクトマネジメントは手段であって目的ではありません。なので「プロダクトマネジメントはかくあるべき」という内容をなぞっても効果的ではありません。重要なのは、プロダクトの成長(ひいては事業・会社の成長と目的やビジョンの達成)をいかに早く、大きくしていくか、ということです。その中で、往々にして「これを創りたい」という人と実際に創る人が異なる場合が多く、その間のコミュニケーションミス・ロスがスピードを阻害します。上記3点はいずれも共通して「創りたい」という想い、短期・中長期のマーケティング等の計画、それら全てに共通する将来の不確実性をできるだけ一人称で理解し、プロダクト開発において「短期的なアウトプットはすぐに出しつつ、先々の開発でも困らない状態を維持し続ける」ことをCTOがリードする、という内容です。

1. 「なぜ作るのか・必要なのか」を掘り下げ、理解する

「なぜそれが必要なのか」が正しく表現されていないと「作ったものが使われない」という不幸が起こります。実際、多くの現場でよく起こります(むしろその経験を積み重ねていく事によってこの観点にたどり着いたのですが・・・)

2. 今実現すべき事とスピード感、それに対して将来のプロダクトロードマップをすべて考慮した上で、設計・実装方針を決める

今のスピードを優先して3ヶ月先に30%スピードが遅くなるより、今のスピードを5%遅くしてでも3ヶ月先にもスピード感を維持する、ということです。CTOとして設計や開発の方針、重要なポイントの指示を行うことでスピードを上げることができるはずです。それを今とこの先の両方を考慮しながら行っていく事が重要です。

3. マーケティングなどに必要な数値が常に計測可能な設計・実装を考慮する

3は意外と忘れられがちです。プロダクトをリリースした後にマーケティングから、こういう数字が見たい、ここどうなっているか調べてほしい、このデータを抽出してほしい、という話しがよく上がります。この時点で、「それはちょっと改修を入れないと出せません」「それを出すには1日かかります」という事だと完全にビジネスのスピードは落ちます。だからといって作る前からその要望をマーケティングにすべて出してもらう、というのは現実的ではないことが多いです。ですので、それらも設計する時点で「リリース後にこういう指標を見るべきだからここのカラムにこのデータを追加しておこう」「ここはとりあえずログだけだしておこう」という判断を行い開発をリードしていくことが重要です。「全部マーケティングに聞けばいい、出してもらえばいい」、と思うかもしれませんが、それ自体現実的にはできていないことが多いですし、「これいりますか?」と聞かれれば「欲しい」という答えが返ってくるだけで、それではただの御用聞きです。しっかりと開発をリードしていくのであれば、その前後のプロセスまで考慮して設計・実装していくべきです。

以上のように、ミニCEOであるプロダクトマネージャの役割をCTOが少しでも多くカバーすることで、コミュニケーションロスを減らし、ビジネスのスピードを上げることができます。人材豊富なチームや大きな会社であればよいですが、初期には人数も少なく特定の役割を持つ人も多くないので、CTOが率先してミニCEOの役割を担うべきだと私は思っています。

プロダクトと組織の垂直立ち上げ

多くのスタートアップではプロダクトと組織を同時に、そして一気に立ち上げていきます。ここでもCTOが「ミニCEO」であることが求められると私は感じています。事業計画やプロダクトロードマップに基づいて、「どのように作っていくか」と同時に「どのようなチームでそれを実現できるか」を常に考えていく必要があります。

プロダクトと組織の垂直立ち上げにおいて、最も重要なことはこのプロダクトや事業において「コア」はどこか、を理解することです。その上で、コアとなる部分に注力できる体制と、それ以外をできるだけライトに実現できる体制・方法を決めることで、重要なことに集中しながら最速で立ち上げていく事ができます。
このコアを明らかにしていくためには技術の観点だけでは不十分です。どのようなビジネスモデルか、どのようなピボットの可能性があるのか、他社との差別化出来るポイントはなにか、逆に差別化できないポイントはなにか、このようなことを理解した上でどこがコアになるかを考えます。実はこの内容はプロダクトマネジメントとして「何を創るか」を考えることと非常によく似ています。

そのコアが明らかになれば、あとはそのコアを実現できる人を採用するかCTO本人がその役割を担う、です。加えてコア以外の部分についてはクラウドサービスなどに依存するのか、外部企業と提携するのか、などを考えてプロダクトを創り上げていきます。これができると、コアな人材の採用と、それ以外を担当する体制が少しずつ出来上がっていき、スピードを損なうことなくプロダクトと組織を立ち上げていく事ができます。

「CTOに求められるマネジメントを身につけるコツ」について3回に分けて書いてみました。すべての内容がすべてのCTOに当てはまるわけではありませんが、その中から少しでも良い気づきを得ていただければ幸いです。

塩谷 将史氏のおススメ書籍

Inspired: How To Create Products Customers Love

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Marty Cagan (著)

INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント
マーティ・ケーガン (著) 佐藤 真治 (監修), 関 満徳 (監修),その他 神月 謙一 (翻訳)

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