プロダクト作りの在り方を探るコラム第10回|「小さく作る」を中心に据えたプロダクトマネジメント

プロダクト開発において着目するべき観点、知っておきたい概念は、数多く挙げられます。そのうちの一つとして、プロダクト開発の基本として当然のように押さえておきたいのが「MVP(Minimum Viable Product)」です。MVPという概念を意識して、実際にプロダクト作りに臨んでいる方も多いはずです。今回は、あらためてMVPという作り方がなぜ必要なのか捉えたいと思います

MVPとは?

MVPのイメージを伝えるものとして有名な絵があります

出典:https://blog.crisp.se/2016/01/25/henrikkniberg/making-sense-of-mvp

ヘンリック氏が示したこのイメージは何を意味しているのでしょうか。絵の上段は、タイヤから始まり、タイヤをつないだシャーシ、ボディのみ、最後に車のていを成しています。4段階目に至るまで、顧客を模した顔はしかめっ面になっていますね。提供されたモノに満足できていないということです。それはそうでしょう。タイヤやボディだけあっても、用を成しえませんよね。

一方、絵の下段はどうでしょうか。最初は、車輪がついたボードのようですね。それから、ハンドルがついて、自転車、オートバイク、最後にオープンカーへと変遷しています。顧客は最初こそ、への字ですがだんだんと笑顔になっています。上段と下段の違いが何か分かるでしょうか。

上段は、最後の段階に至るまで、利用ができるモノになっていません。下段は、最初から(満足はできないものの)移動を支援する手段として一応成立しています。すなわち、評価判断ができるということです。提供されたものへのフィードバックを返せるわけです。作り手は、そのフィードバックを元に何が必要なのか探索を続けていくことができます。最終的にオープンカーにたどり着いているのをみると、顧客は単に移動をラクにする手段ではなく、外の空気が存分に楽しめる、快適さをあわせ求めていたのだということが想像できます。こうした価値は最初から常に言語化できるわけではなく、利用体験を踏まえることで何を必要としているのか、顧客自身が理解し判断できるようになると言えます。

プロダクトの背骨 = MVPのMVP

このMVPのイメージが示しているのは、「小さく始めることで早く顧客に試してもらえる(=早く実験ができて、早く学べる)」、「アウトプットへのフィードバックから、価値が何かを理解していく」という戦略です。これは、プロダクト作り全般にわたって有効となる考え方です。

MVPを定義して、実際にプロダクトを作る、その際にも「小さく始める」戦略を適用しましょう。MVP自体が、プロダクトの全体構想のうちの部分のはずです。この部分(MVP)のうち「どこから作り始めるのか」です。作り始めるのは、「プロダクトの背骨」にあたるところからになります。

プロダクトの背骨とは、「MVPで提供する利用体験のうち、これら機能がなければ体験として成立できない」と位置づけられる機能群です。人体を成す骨格に該当するイメージです。プロダクトとしては、そうした目的のために基本として必要となる機能群とは別に、利用を補助するもの、利便性を高めるものといった付随機能も存在します。後者の機能群は、「プロダクトの肉」にあたります。背骨があるからこそ肉を盛っていくことができる。肉的な機能にとって、背骨は前提です。

プロダクトの背骨から作るのも、「小さく始める」戦略による利点を狙っています。まず、背骨があることで、ひとまず利用ができるということ。繰り返しになりますが、利用ができる状態ならば試せるということ。つまり、MVPとしての最低限の目的を果たせるということです。

また、採用する技術、設計方針、作り方の流れ、開発チーム内のコミュニケーションのあり方など、開発上の「前提」をまず作ることで、その後の開発をやりやすくする利点があります。プロダクトの背骨アプローチでは、特にこちらのメリットを大きく感じるでしょう。

MVPが顧客との対話による「何をつくるべきか」の理解のためなら、プロダクトの背骨は、開発チーム内での「何をつくっているのか」の理解を深めるためになると言えます。顧客に対して、今までにない、新たな体験を提供しようとする野心的なプロダクトほど、一体どういうモノを作ろうとしているのか、作り手側自身も十分に理解できていないことが珍しくありません。実際に形にしていくことで、作っているモノとその狙いの理解がしっくりと伴ってくる。プロダクトの背骨にはそのような価値があります。

「小さく作る」の価値

「小さく作る」は、更に一つ一つの機能を作る際にも適用できる考え方です。ある機能を作るのに、最初から最後まで直線的にコードを書いていくことはよほど小さなもの以外はありませんよね。機能を構成するのに必要な最小限のコードから書きはじめて、構造を意識しながら作り進めていくはずです。

こうした「小さく作る」アプローチは、ムダなことをしない、ムダなものをつくらない、という方針に従うものであり、その本質は「行為から学んで、次の行為に繋げる」ところにあります。MVPで何がしたいのかというと、前半のとおり「学習」にあるわけです。学ぶために、作る。その学びを早く得るために、小さく作る。学びに必要のない範囲はムダとなる可能性があるため、作らない。

ですから、本来MVPを作った後で、次に何をするか迷うこともないはずですよね。MVPでいきなり事業をスタートする、事業を運用するための組織を作りはじめるということはないでしょう。MVPができたからといって、いきなり市場に投入して試すべきなのかは、検証の目的に依るはずです。作り手は壮大なプロダクトの構想イメージをもっており、提供するプロダクトはあくまで最初の一手のつもりでも、それを受け取る顧客にとっては「スケートボード」です。失望した市場が、次のプロダクトに見向きをしてくれるかは、想像しておいたほうが良いでしょう。

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