起業欲がなかった学生がスタートアップに参画し、国内No1のヘルスケアアプリに成長させるまで

「カラダのすべてを、ひとつのアプリで。」のコンセプトのもと、間も無く1000万ダウンロード突破するなどヘルスケア・フィットネス分野で国内No1※のダウンロード数を誇る「FiNC」を運営する株式会社 FiNC Technologies。今回は、今年4月にCTOへ就任した篠塚氏に FiNC Technologiesのこれまでとこれからについて伺いました。

※日本国内 App Store / Google Play「ヘルスケア(健康)/フィットネス」カテゴリにおける1年間(2019年1月~12月)のダウンロード数の合算です/出典:App Annie

篠塚 史弥|株式会社 FiNC Technologies Chief Technology Officer

2012年東京大学工学部システム創成学科卒業、2014年東京大学大学院学際情報学府総合分析情報学コース修了。大学院では分散システムを専攻し、総務省との共同プロジェクト「情報流通連携基盤共通API」の研究に関わる。在学中には医薬品関連のスタートアップを二社創業し技術責任者を務め、大学院修了のタイミングでメンバーと共にFiNCにジョイン。FiNCでは第一号エンジニアとしてファーストサービスの立ち上げから現在に至るまでのサービス全般の設計、開発、保守、運用に携わりFiNCの成長を支える。他にもエンジニアチームの採用、教育、マネジメントも行う。2020年4月、CTOに就任し現在に至る。

株式会社 FiNC Technologiesについて

御社の事業内容を教えて下さい。

弊社はヘルスケア×AIテクノロジーを掛け合わせることで健康に関連する課題解決を目指しているヘルステックベンチャーです。 「カラダのすべてを、ひとつのアプリで。」をコンセプトにしたヘルスケア・フィットネスアプリ「FiNC」をはじめ、有料課金サービス「FiNC Plus」、法人向け健康経営サービス「FiNC for BUSINESS」、ウェルネスセレクトショップ「FiNC MALL」など、ヘルスケア領域で様々な事業を展開しています。

プログラミングができず無力さを感じた大学時代から一転、学生エンジニアとして2社起業

そもそも篠塚さんは、いつ頃からインターネットやエンジニアへ興味を持ち始めたのでしょうか。

大学3年生の時に学科で東大の松尾研究室に配属されました。現在は、AIの研究で有名な松尾研究室ですが、当時はWeb APIを使いながらサービスを作るプロジェクトがメインでした。

しかし当時の私は全然プログラミングが出来なかったため、最初の企画ぐらいしか関われず、一切そのプロジェクトへ貢献できませんでした。理系なのに何も貢献できないことに悔しさが残り、その出来事をきっかけにプログラミングを身に着けたいと思うようになりました。そこで、未経験からでも参加可能だったVOYAGE GROUPの夏のインターンに参加しプログラミングを学びました。さらに、プログラミングを専門的に勉強するため大学院へ進学しました。大学院では分散システムを専攻し、総務省との共同プロジェクト「情報流通連携基盤共通API」の研究に関わっていました。

学業の傍ら、南野さん(現在のFiNC Technologies 代表取締役 CEO)と2社起業されていますが、経緯を教えて下さい。

私と南野(現在のFiNC 代表取締役 CEO)は、大学の同級生でした。彼はもともと起業欲があり、3年次には起業系のインターンシップへ参加していました。彼はそこで優勝し優勝賞品として新規事業を始める権利と資金を獲得しました。新規事業を始めるにあたってアプリケーション開発を外注したのですが、納品されたアプリケーションがまともに動かなかったんですね。トップページの表示が1分かかる、といったような(笑)その時、僕がささっと直してあげたことがきっかけで、南野と一緒にプログラミング開発をするようになりました。4年次には、社員2名位の小さいベンチャーで南野とプログラムを書くバイトをしてました。南野がフロントなど見た目を作ってお客さんに説明したり営業をするのが得意で、僕がバックエンドを作るのが得意だったのでうまく役割分担できていましたね。

もともと僕は、起業欲はなく「一人でプログラミングできたらそれでいいや」という気持ちだったんです。一方、南野は「起業したい」と思っていて、起業するうえでプログラミングを書ける人を探していたところ丁度僕がいた、という感じでした(笑)

僕自身も、実サービスでプログラミングをするという面白い経験ができるならやってみたいという位の気持ちで始めたので、起業に対する怖さは全くありませんでした。また、南野とは共有しているコンテキストも多く、プロジェクトを進める上で無駄なコミュニケーションコストがかからなかったことや、考え方が一致する点も多かったことも、一緒に起業することに至った理由です。

それから学部4年の時、知り合いのお医者さんと僕と南野で医薬品流通の非効率なところを解決したい、という思いで1社目の会社を立ち上げました。当時は、今FiNCで掲げているような立派なビジョンはなく、この領域ならチャンスがあるということで起業しはじめました。2社目は、1社目の関連で医薬品の学会へ行く事が多くなり、そこで知り合った専門の方と起業しました。ここでは、なんとなくで買っているOTC医薬品(薬局等で医師による処方箋なしに購入できる市販薬)をテクノロジーの力を使うことで、消費者が欲しいと思う製品と出会える精度を高めるシステムを開発しました。

これらの経験を通して、自分で作って何か世の中にサービスを出すという経験が一番面白いなと思うようになり、卒業後の進路で一般企業に就職するのではなく、自らサービスを作っていくことができるスタートアップで働きたいという思いが強くなりました。

疲弊のすえ、正式リリース。学ぶことも多かったFiNC Technologies創業期

FiNC Technologiesへジョインした背景を教えて下さい。

最初は溝口さん(FiNC Technologiesの創業者兼当時のCEO)からFiNCのシステム開発の発注いただいたのがきっかけです。ダイエット事業とのことだったので、最初は胡散臭そうだな、と思っていました(笑)

その後、溝口さんとお会いし大きく印象が変わりました。溝口さんは、「お客様の健康の問題を解決するために生活習慣病を改善したい。その課題を改善するためにダイエットという切り口で健康増進に努め、課題を抱えている人が改善できる世の中にしたい」と真摯に話してくれました。とても誠実で信頼できる人だなと思うようになり一緒に仕事をすることを決めました。

FiNC Technologiesの初期の組織体制について教えて下さい。

当時のFiNC Technologiesは、パーソナルジムの運営中心の会社で、スマートフォンの普及により、これからスマホ向けのサービスへ注力していこうという時期でした。最初の頃は、高価格帯だったためジムに通う方向けの会員制アプリというような立ち位置でしたね。

2014年3月に入社した当初の開発組織は3人体制で、僕は主にバックエンド側の仕事に携わっていました。同年5月くらいに開催されたIVSというベンチャーイベントで自分たちが作ったプロダクトが入賞するなど、順調なスタートを切りました。それからは、VCが人材を紹介してくれたりということが増えました。

2014年末~2015年頭には、組織拡大に伴い、本格的にエンジニア採用を始めました。とはいってもまだ初期なので、リファラル採用が主で、若めでしっかりエンジニアのベースが出来上がっている人を基準に採用しました。最初に採用したのは、技術力も高く、自身でスタートアップを立ち上げた経験を持つ方でしたね。

2017年「FiNC」を正式ローンチしていますが、想定通り進みましたか?

正直めちゃめちゃ大変でした。リリースする半年前にtoC向けアプリを公開することは決まっていたのですが、何を作るのかというところがまだ全然決まっていなかったんです。そのため、まず何を作るのかという企画からスタートし、開発を進めていました。ただ完成間近というタイミングで最終決裁者の溝口さんから「想定したものと違う」と言われ、作り直しになったこともありました。

そんな開発環境だったので、当時はめちゃめちゃハードに働いていましたね。僕個人がハードワークすることは良いのですが、他のエンジニアも「マネージャーが働いているんだから、現場も頑張らなきゃ」みたいな雰囲気になるので、結果、無意識にハードワークを強要してしまう環境で、プレッシャーをかけてしまったなという思いがあります。そのせいでリリース後は、結構退職する人も多く僕自身の気持ちも病んでしまいました。

今、当時を振り返ってみて、何が足りていなかったと思いますか?

エンジニアメンバーから「そんな短期間で無理だ」とか「作る仕様が決まってないものを作らさせられて、リリースしなくなるというような開発体制だとやってられない」など不満が上がっていました。

一方、最終決済者であり創業者の溝口さんが一番サービスに思いを持っているのは当然なので、開発を進めるうえで最終決済者の不安を取り除きながらコミュニケーションするというのが足りていなかったことが一番の要因かと思います。

「価値観を押し付けない」マネジメントに至るまで

2016年、マネージャーに就任していますが、篠塚さんの中で何か変化はありましたか?

「これからエンジニア組織を強化していこう」というタイミングでマネージャーへ就任しました。

1エンジニアの時は、自分がコードを書いてそのバリューを提供すれば良かったのですが、マネージャーは、きちんとメンバーを成長させてチームとしてアウトプットを最大化させていくというマネジメントをやっていく必要があります。時として、「こういう風にすれば正解!」と分かっているけれど、メンバー自身が気づかなければ成長に繋がらないという場面では、あえて口出しをしないようにしていたため、結構もどかしさを抱えながらやっていましたね(笑)

どのようにしてマネジメントを学んでいきましたか?

エンジニアマネジメントについては、当時技術顧問をやっていただいていた及川さんに相談しながら学んでいきました。また、一般的なマネジメントについては、弊社に取締役向け研修やマネジメント研修も豊富に用意があるため、そこで相談したり学んだりしました。

僕は、現在のように社外取締役や顧問など様々な外部の方に相談できる環境があるというのは良いと思っています。一度経験がある方が自身の経験を語ったり、今の状況にオーバーフィットしすぎず客観的な視点でアドバイスをくれるので、物事を判断する際の参考になっています。

ピープルマネジメントで注意していることはありますか?

「価値観を押し付けないようにすること」を注意しています。FiNCは、以前はグローバル展開を視野に入れていたため、多い時はメンバーの約半数が海外の方という状況がありましたが、海外の方から「君たちのやり方は、ジャパニーズウェイだね」と言われたことで、やり方は色々あるのだと気づかされました。また、以前他の企業でマネージャーを経験した人からも、異なるマネジメント方法を教えてもらったりもしました。このように、会社でマネジメントをしながらメンバーに教えてもらうことが多いです。

組織を拡大する上で、どう仕組み化していきましたか?

2017~18年位に、辞める人が出てきたのですが、俗人化していた組織であったが故に人が辞めると回らなくなるという状況になっていました。このままだといけないと思い仕組みを作ることにしました。

僕自身は、何でも自由で決められるということは好きでしたし、皆にも同じように意思決定をするということを経験して欲しかったのですが、一方で現場のメンバーからすると、ドキュメントの整備やその他の仕組みがあった方が自由にできるということで仕組み化するという結論に達しました。

CTOへ就任。新CTOとしてやりたいこと

2020年4月にCTOに就任された背景を教えて下さい。

2020年1月、弊社の代表が溝口さんから南野に変わるなど会社全体で大きな変化がありました。僕自身も、創業期からコードを見ていてシステム全体のアーキテクチャーを把握していたこともあり、2020年4月にCTOへ就任することになりました。

今のエンジニアの開発組織を教えて下さい。

弊社は、全員で30人(業務委託入れると約45名)くらいで、CTOの他にVPoEがいます。

新型コロナウィルスの影響で3月位から完全リモートとなり、今後もリモートでやっていく方針で行っています。コロナ以前もリモートは容認していたのですが、基本的に皆出社しており開発に集中するときだけリモートという形を取っていました。

CEO・CTOの交代など色々な影響もあるので、単純にリモートの生産性を計算することはできないのですが、全体的に無駄なMTGが減り、より目的にフォーカスするようになったと思います。

CTOとしての現在の業務内容を教えて下さい。

基本的にはチームビルディング7割、事業開発3割に時間を使っています。

チームビルディングでは、採用やブランド戦略を策定したり、チームが目指す指針を作ったり、それらを内外に発信したりしています。少しチームビルディングとはずれるかもしれませんが、開発チームの生産性を高めるために開発チーム外も含めて問題解決を行うといったように、俯瞰した視点からの課題発見と解決も行っています。

御社にはVPoEもいらっしゃいますが、お互いどのように役割分担していますか?

VPoEがマネジメントの役割を、CTOが技術を使って方向性決めるということに従事しています。しかし、ここまではCTOの役割、ここから先はVPoEの役割というように分けるのではなく、同じ目標に向かってお互いの領域を侵しながら一緒に進めています。事実、お互い相手の良いところを引き出したり、足りない所を補ったり良い関係性で進められていると思います。

最後に、篠塚さんが今後FiNC Technologies 成し遂げたいことを教えて下さい。

今年の4月にCTOの役割を任され、その中で成し遂げたいことは明確にあります。

1つがヘルスケア産業の予防領域で、テクノロジーを軸として確固たる事業を作っていくことです。個人の行動変容や健康増進ができるプラットフォームを作っていくために、開発チームをより強固なものにしていきたいです。非連続な成長をするためにも、開発チームには今後も変革を迫っていくつもりです。

もう1つが、去年まではメディアを中心に機械学習を活用してきたのですが、今後は健康(運動・食事・休養)や行動変容に関わるところを中心に、機械学習をはじめとしたテクノロジーの活用をしたいと思っています。現在、食事の分野に注力しサービス提供し始めたところですが、運動・休養など予防領域では欠かせないところも順次着手していきたいです。

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