AI時代を切り拓く「CTO×CAIO」の二頭体制──ミツモアが目指す、開発と組織のAIネイティブ化と次世代プロダクト戦略

株式会社ミツモア 最高技術責任者 CTO 門畑 氏(写真右)

2007年に東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻を修了し、日本電信電話(NTT)に入社。未来ねっと研究所で研究主任として光通信網における数理最適化の研究開発に従事し、博士(工学)を取得。その後アクセンチュアでIT・クラウド戦略コンサルティング、アマゾン ウェブ サービス ジャパンでシニア事業開発マネージャーとして大手企業のクラウド活用・デジタル変革を支援。2023年よりUPWARD株式会社のCTOとして全社の技術戦略と海外事業のプロダクト開発を統括し、商談内容をAIが自動で要約しCRMへ連携する機能や、AIが位置情報の検知精度を自動最適化する機能など、SaaSプロダクトへのAI実装を自らリードしてきた。2026年7月、株式会社ミツモアCTOに就任。

株式会社ミツモア 最高AI責任者 CAIO 柄澤 氏(写真左)

2013年に東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻を修了し、ヤフー株式会社に入社。ヤフオク!のプロダクト開発、ベトナム拠点でのオフショア開発マネジメントを経て、CTO室で全社横断の技術支援に従事した。2017年2月、代表の石川彩子とともにミツモアを共同創業。設立から2週間で初期プロダクトを開発し、2か月でサービスをリリースした。同年5月に取締役就任。以来CTOとしてミツモアの技術基盤をゼロから構築してきた。2026年8月、CAIO(最高AI責任者)に就任。

ミツモアについて

まず、ミツモアがどのような事業を展開しているのか、改めて教えていただけますか?

柄澤氏:

ミツモアは、「日本のGDPを増やし明日がもっといい日になると思える社会に 」というミッションのもと、大きく分けて2つの主要サービスを展開しています。

1つ目は、社名にもなっている見積もり・マッチングプラットフォーム「ミツモア」です。

エアコン設置やカメラマン撮影、税理士相談、リフォームなど、日常生活やビジネスにおけるあらゆるローカルサービスにおいて、依頼者と事業者を自動で見積もり・マッチングするサービスです。複雑な見積もり作成をAI・アルゴリズムで自動化し、双方の手間を劇的に削減するツーサイドプラットフォームとして成長を続けています。

2つ目は、フィールドワーカー(現地で作業を行う事業者・作業員)向けのオールインワン業務SaaS「プロワン」です。

設備工事・リフォーム・ビルメンテナンスといった現場仕事の事業者様向けに、営業・見積もり作成から、スケジュール調整、現地での作業管理、受発注、請求・決済までを一気通貫で管理できるプラットフォームです。これまで紙や電話、Excel等に頼っていた現場のアナログな業務フローをデジタル化し、現場の生産性を爆発的に向上させています。 現在は中小事業者様を中心に広くご利用いただいていますが、この「プロワン」をさらに大手エンタープライズ企業様へ展開していくとともに、全社をあげてプロダクトおよび社内オペレーションの「AIネイティブ化」を強力に推進しているフェーズです。

ありがとうございます。お二人のご経歴について伺いたいのですが、お二人は東京大学大学院の同じ専攻(地球惑星科学専攻)をご卒業されているのですね。お二人の接点や、お互いの共通点について伺えますか

門畑氏:

実は大学院時代は時期が6年ほど空いていて、当時はお互いの存在を知らなかったんです。専攻自体も非常に幅広くて、地球システムや海洋、地震、惑星の大気など多岐にわたります。柄澤は地震研究で、私はJAXAの宇宙科学研究所で地球惑星の研究をしていたので、研究テーマ自体は「地面と宇宙」というくらい離れていました(笑)。 ですが、根底にある「未知の事象をディープに徹底的に調べ上げる」という学術的なアプローチやロジカルな思考プロセスは非常に似ていると感じます。

柄澤氏:

そうですね。たまたま同じ専攻だったと知った時は驚きましたが、仕事を進める上でのロジックの組み立て方や、ディープに深掘りしていく探究心のような部分は非常に共通していると感じます。

門畑氏・柄澤氏のキャリアと、ミツモア参画への決定打

門畑様は、研究者の道からNTT、アクセンチュア、AWS、SaaSのCTOへとキャリアを歩んでこられました。どのような背景や心境の変化があったのでしょうか

門畑氏:

NTTグループの研究所にいた頃は、研究開発から保守運用まで一通り自分で手を動かして経験することができました。世界のトップカンファレンスに招待されたり、ドクター(博士号)を取得してコア技術をプロダクトに落とし込むところまでやり切った感覚があったんです。

大学で研究者として1つの分野を小さく掘り下げ続ける道もありましたが、私は「より大きな社会インパクトを生み出したい」と考えました。そこで、ビジネスとITの双方に強みを持つアクセンチュアへ転職しました。

アクセンチュアでは約3年間、大型のSI案件でプロジェクト管理(PMO)を行いながら、人手不足の現場では自らデータベースの構築やネットワーク設計・構築を泥臭く行いました。一方で、顧客の中長期的なIT中計の策定や、クラウド移行に向けた戦略コンサルティングまで幅広く手掛けました。その後、AWSジャパンでの事業開発やSaaS企業のCTO(UPWARD等)を経て現職に至ります。

ミツモアへの参画を決めた理由は何だったのでしょうか

門畑氏:

私自身、以前から現場で働くフィールドワーカー(建設・工事現場や訪問サービスなど)の方々に向けた業務システムを作りたいという強い想いがありました。フィールドワーカー向けプロダクトには「セールス(営業・見積もり)」と「サービス(現場施工・業務管理)」の2つの軸があります。

ミツモアが提供する「プロワン」を知った時、自分がやりたかった「現場の課題を解決するプロダクト」を既に高いレベルで作り上げていたんです。「これはまさに自分が挑みたかった領域だ」と強く惹かれました。さらに、代表の石川をはじめとする経営陣が極めて優秀かつ魅力的であり、ミツモアの成長フェーズにおいて自身のこれまでの経験を活かすことで、事業成長を何倍にも加速できると確信したことが入社の決め手です。

柄澤様はYahoo!を経てミツモアを共同創業され、長年CTOを務められた後にCAIOへと就任されました。これまでの歩みと心境の変化について教えてください

柄澤氏:

新卒でYahoo!に入社し、主にヤフオク!の開発やベトナム開発拠点でのチームマネジメントを担当しました。ヤフオク!は「出品者」と「落札者」のマッチングを行うツーサイドプラットフォームです。この構造は、ミツモアの「事業者」と「依頼者」をマッチングするサービス構造と完全に重なっていました。

2017年に代表の石川と出会い、共同創業者としてミツモアを立ち上げました。立ち上げ当時はスタートアップらしくスピードを最優先し、約2ヶ月で最初の見積もりサービスをリリースしました。ただ、当時から私が徹底していたのは、「社内オペレーションツール(管理画面など)を本体アプリと同等レベルのクオリティで最初から作り込む」ということです。ツーサイドプラットフォームでは社内でのデータ操作や運用が非常に多く発生するため、この設計が後の急成長を支える基盤になりました。

「CTO×CAIO」二頭体制の真意と、130名超の開発組織

約9年間CTOを務められた柄澤さんがCAIOへ就任され、門畑さんがCTOに就任されるという「CTO×CAIO」の二頭体制へ移行されました。当時の葛藤や、体制の狙いについて教えてください

柄澤氏:

CTOからCAIOへ移る際の迷いは特にありませんでした。会社の成長に伴ってやるべきことが膨大になる中で、プロワンをエンタープライズ向けにさらに進化させる軸と、生成AI時代に合わせて会社全体の働き方や構造を根本から変革していく軸の双方が必要でした。これを一人で抱え込むのは難しく、社内のAI推進に割けていたリソースも3〜4割程度というもどかしさがありました。そんな中で門畑にCTOとして参画してもらい、全社・プロダクトのAI推進(CAIO)に集中できる環境が整いました。

門畑氏:

私が就任してからの数ヶ月間、マネージャー層と一人ひとり1on1を重ねる中で、個々のメンバーは非常に強い一方で、組織全体としてさらに伸ばせるポテンシャルを感じました。今期は目標設定の段階から「ハーネスエンジニアリング(AIを活用してコーディングやテストを行い品質を担保する仕組み)」を必ず盛り込むなど、仕組み化と全体最適に手を入れています。

体制としては、プロワンプロダクトやミツモアプロダクト、基盤開発に加えて、柄澤が全社的なAI推進を行うCAIO室を統括しています。AI機能をプロダクトに組み込むといった領域は重なる部分も多いですが、お互いの領域をかっちり分断するのではなく、相談ベースで柔軟に連携しています。目指すゴールが同じなので、方向性で意見が割れることは基本的にありません。

現在の組織の規模感や体制についても教えてください

門畑氏:

業務委託の方々を含めて、開発・プロダクトに関わるメンバーは全社で約133名(純粋なエンジニアは約100名)の規模です。業務委託の割合は全体の3割ほどですが、単なる外注ではなく非常に積極的にチームへ参画していただいています。技術環境としてはTypeScriptを主軸に据えつつ、一部でGo、Rust、Pythonですね、チームやモジュール単位でPDMやQA、デザイナーが密に連携し、SREなども少数ながら横断的に全体を支える体制をとっています。

開発チームにおけるリモートワークと出社のバランスや、チーム運営での工夫についてはいかがでしょうか

門畑氏:

エンジニアに関してはリモート多めのハイブリッドで進めていますが、チームや人によってグラデーションがあります。設計やホワイトボードを使ったディスカッション、新しいアイデアを出し合うフェーズは間違いなくオフライン(出社)の方が強いですし、ジュニアメンバーにとっても出社して周囲の会話を聞ける環境は効果的です。一方で、タスクが明確に分割されてモクモクと製造工程をこなすフェーズなどはリモートの方が効率が良い場合もあります。週1回のレトロスペクティブなどはリモートでも機能しますが、新しい発想を生むにはオフラインが適していますね。

柄澤氏:

新しいチームでは実験的に、1人がデザインからプロダクトマネジメント、実装までを一気通貫でやり切る体制も試しています。あえて役割を固定せず、AI時代に合わせて柔軟に動き方を変えていくトライを重ねているところです。

中小事業者向けから大手エンタープライズ企業へと領域を広げるにあたり、技術的な難所はどのような点にありますか

門畑氏:

SaaSの最大公約数的なロジックと、エンタープライズ顧客が持つ個別かつ複雑な業務ロジックは、どうしても相性が悪い部分があります。お客様に合わせて何でも個別開発してしまうとSaaSの良さが失われてしまうため、吸収しきれない部分をどう個別開発ではなく「プロワン」という共通プラットフォーム上で吸収・拡張できるか。ここがアーキテクチャ上の最大のポイントであり、日々頭を悩ませながら取り組んでいるところです。

AIの実装についても、初期の懐疑的な見方から全方位でのAIネイティブ化へ大きくシフトされていますね

門畑氏:

もともと2009年頃のディープラーニング隆盛期には、自然言語処理に対しては懐疑的な部分もありました。OCRなどの機械学習は取り組んでいましたが、コストの壁が高かったんです。それがGPT-3.5の登場を経て翌年に価格が数分の1から数十分の1になり、「これはビジネスになる」と確信して本格的な検証に舵を切りました。今では音声の文字起こしや要約、OCRなど全方位でAIを活用したサービス開発を進めています。

「AI生産性のパラドックス」と、これからのコードレビュー・品質担保

生成AIによってコードの初稿生成スピードが上がる一方で、レビュー負荷の増大やシニア層の負担増という『AI生産性のパラドックス』が業界全体で課題視されています。ミツモア様ではこの問題にどう向き合っていますか

門畑氏:

まさに今期私たちが最も変革しようとしているテーマです。世の中の多くの現場は「AIが大量にコードを書き、人間が必死にレビューする」という構造になっており、ここが最大のボトルネックになっています。

私たちが目指しているのは、「レビュー自体もAIや仕組みにやらせる」というアプローチです。人間がすべて人力でチェックするのではなく、バグの一次検知やテストコードの生成、仕様との整合性チェックをAIに担わせるハイブリッドな仕組みづくりを進めています。複雑なロジックでない限りバグ発見などはAIの方が早い場面も多く、コードから仕様を正しく起こして理解を深めるアプローチも検討しています。

柄澤氏:

今はまさに過渡期なのだと思います。10年後には人間が直接コードを見ることはほぼなくなると個人的には思っています。人間がレビューに苦しんでいるのは、AIに対する「コンテキスト(設計思想や文脈)」のインプットがまだ足りていないからです。人間からAIへ適切な文脈を移譲していく環境づくりが、今後の競争優位を決めると考えています。

社内でのAI活用についても、全社的な「クロードコード祭り」で385件もの自動化ツールが生まれるなど、圧倒的な活気ですね

柄澤氏:

営業や経理も含めた全社で自発的な改善が進んでいます。アプローチとしては、AI推進チームが現場に入り込んでハンズオンで生産性を高める手法と、全社的にツールを作る土台を整えて自発的に改善してもらう手法の両輪で回しています。

一方で、社内利用ではMDMによるガバナンスや、プロダクト側ではテナントごとのAI原価管理や適切なモデル選択、キャッシングによるコスト最適化を徹底し、ゼロデータリテンション(ZDR)の必須化など、セキュリティとコストのバランスを緻密にコントロールしています。

AIが浸透していく中で、エンジニアの育成や採用、組織のあり方はどのように変わっていくのでしょうか

門畑氏:

ジュニアエンジニアの育成は非常に重要です。AIにただコードを書かせるのではなく、「なぜこの設計・実装になったのか」を本人に徹底的に説明させ、説明責任を持たせることで学習を急加速させています。ただ、プログラミングスキルやシステム全体の設計勘どころは一朝一夕では身につかないため、AIを活用した学習の仕組みが重要になります。

また今後は、PDM、デザイナー、エンジニアといった職種の垣根を越えた「マルチロール化」が不可欠になります。1つの専門性を軸に持ちながら、横の領域(デザインやプロダクトマネジメント、顧客との折衝)まで染み出していける人材が評価される時代であり、評価制度や組織設計もそこに合わせてアップデートしています。

採用においては、日常的にAIを使いこなしているかを前提としつつ、「お客様の本質的な課題やシステムの仕組みに対して、どれだけ深く思考できるか」という思考の深さとホスピタリティを重視しています。

変化を恐れず、自ら全撤回できるリーダーシップを

最後に、OCTOPASSの読者であるCTOやVPoEの方々へ向けてメッセージをお願いします

柄澤氏:

AI時代のCTOやVPoEに求められるのは、組織とプロダクトの方向性を示し、メンバーやAIが迷わず動ける枠組みを作ることです。そして何より大切なのは、「過去の成功体験や前提を、変化に合わせて躊躇なく全撤回できる柔軟さ」です。昨日までの常識を捨て続ける覚悟がリーダーには必要だと感じています。

門畑氏:

開発のスピード感も価値創造のあり方も激変しています。この変化の波を楽しみながら、優れたチームメンバーと共に泥臭く、かつ高速に社会へインパクトを与えていきたい。そうした挑戦を続けるエンジニアやリーダーの皆さんと、ぜひ一緒に新しい時代を切り拓いていきたいですね。

\ミツモアではエンジニアを積極採用中!/

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