「障害のない社会をつくる」を技術で支える。LITALICO市橋氏が語る技術基盤刷新とエンジニア組織づくり

株式会社LITALICO 執行役員CTO 市橋 氏

大手通信会社研究所にてIP電話サービスの開発に従事。その後、通信系ベンチャー、教育系ベンチャーを経て、2017年1月、当社入社。2019年9月、執行役員に就任。 技術基盤の刷新とエンジニア組織の急拡大を牽引。現在はCTOとして、プロダクト開発から社内IT、AI戦略まで幅広く統括する。

LITALICOについて

まず、LITALICOがどのような事業を展開しているのか、改めて教えてください

「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、障害福祉や教育の領域で事業を展開している企業です。ここで言う「障害」とは、本人にあるものではなく、社会の側にある「環境の偏り」や「不十分な仕組み」を指します。その障害をテクノロジーと人の力で解消していくのが我々のミッションです。

事業は大きく分けて3つの柱で構成されています。

①対人支援: 障害のある方の「働く」を支援する就労移行支援事業所『LITALICOワークス』、お子さま一人ひとりに合わせた学びを提供するソーシャルスキル&学習教室『LITALICOジュニア』などを全国で300拠点以上運営しています。※2026年10月時点

②インターネットサービスを中心としたプラットフォーム事業: 発達障害のあるお子さまの家族向けポータルサイト『LITALICO発達ナビ』や、働くことに悩む方向けの『LITALICO仕事ナビ』といったメディアを運営。数百万人のユーザーが利用する国内最大級のプラットフォームです。

③SaaS・IT事業: 全国にある他の福祉施設(競合他社も含む)に向けて、業務効率化や支援の質を向上させるSaaSを提供しています。

これら「対人支援」「インターネットサービスを中心としたプラットフォーム事業」「SaaS・IT事業)」という全く性質の異なる領域同士で連携し、障害福祉のDXを垂直統合で進めているのがLITALICOという会社の特徴です。

大学には行かず、音楽と旅に明け暮れたフリーター時代。26歳で選んだITエンジニアという道

市橋さんご自身のキャリアについて教えてください

はい、実は僕、大学に行っていないんです。25歳くらいまではずっと音楽をやったり、バックパッカーとしていろんな国をふらふらと旅したりして過ごしていました。いわゆるフリーター生活です。

25歳になって「そろそろちゃんと働かないと」と思い立ち、仕事探しを始めたのですが、スーツを着て営業をしたり、バックオフィスで書類を整えたりする自分は全く想像できなかった。昔から「ものづくり」には興味があったので、最初は建築士や、ガラス職人だった祖父の影響でガラス工芸の道も考えました。その選択肢の中に、たまたまITエンジニアもあったんです。

そこからITの道を選び、どのようにキャリアを築かれたのでしょうか

26歳からITエンジニアとして働き始めました。最初は現場に出て、客先に常駐していましたね。その後、大手通信会社グループの研究所に約5年間在籍しました。そこでは新規サービスの立ち上げやIP電話の開発など、インターネットの土台を作る技術に携わりました。

続くインターネット企業でも6年半、IPv6の商用化やMVNO(格安SIM)の立ち上げ、クラウド基盤の構築など、インフラ技術を極める日々を過ごしました。技術を深掘りすること自体は楽しかったのですが、40歳を目前にした時、「技術そのものを追求するだけでなく、その上でどんな社会的価値を生むか」という方向にシフトしたいと強く思うようになったんです。

我が子が通う幼稚園での原体験。抽象的な「社会貢献」が「あの子たちの未来を作る」という使命感に変わった瞬間

インフラエンジニアとして順調に実績を積む中、なぜ「福祉」という全く異なる領域のLITALICOを選んだのですか?

当時、教育系ベンチャーで1年ほど働いている中で、改めて「解決すべき難解な社会課題」とはなんだろうかと考えていました。その時出会ったのがLITALICOです。

決め手になったのは、非常に個人的なリアリティでした。当時、僕の子どもが幼稚園に通っていたのですが、そこは障害のある子を積極的に受け入れている園だったんです。日常的に彼らと接する中で、「この子たちが大人になった時、生きやすい社会になっていてほしい」という切実な願いがありました。

世の中に「社会貢献」を謳う会社は多いですが、LITALICOには支援の「現場」という、顔の見えるリアルな手応えがあった。抽象的な「社会を良くする」という言葉が、僕の中で「あの子たちの未来を作る」という具体的な使命感に変わったんです。

エンジニアわずか10名、ブラックボックス化した基幹システム。店舗コストからSaaSへ、リファラル採用で描いた逆転劇

2017年に入社された当時、IT組織の状態はいかがでしたか?

僕が参画した当初は、エンジニア数が10名程度の少数先鋭チームで、これからサービスをスケールさせる段階。細かな仕様もこれから決めていくという状態の、まさに伸びしろしかない状態でした。

僕は当初、情シスの部長ポジションとして入社しました。そこでまず決断したのが、既存システムを自社店舗で使うだけのものではなく、外部の事業所にも販売してご利用いただける「SaaS」としてフルリニューアルすることでした。店舗事業のコストとしてではなく、収益を生むプロダクトとして作り直すことにしました。

当時、そこからどうやってチームを作ったのですか

当時は求人を出しても応募が集まってこなかったので、これまでのキャリアで出会った方々に一人ずつ声をかけ、リファラルというかたちで集めました。これまで一緒に働いたことのあるメンバーが中核になってくれたおかげで、プロダクトの質が一気に上がり、経営的なインパクトも出せるようになりました。そして徐々に僕が組織全体を見るようになり、正式に執行役員CTOを拝命することになりました。

現在のCTOとしての具体的な仕事内容を教えてください

現在は組織はエンジニアだけで250名、デザイナーなどのクリエイティブ側も含めるとかなりの規模になりました。プロダクト数は10を超え、チームもプロダクトごとに15、社内IT系で7〜8つあります。

日常的なマネジメントは各マネージャーに任せていますが、僕が責任を持つのは「横断的な技術戦略」と「抽象度の高いアーキテクチャの設計」です。

例えば、あるプロダクトで作った機能を、将来的に他のプロダクトでも使える共通基盤として切り出すかどうかの判断や、システム全体のデータモデルが「福祉」というドメインの将来的な法改正に耐えうるかどうかの検証などです。あとは、新規事業の立ち上げ時、まだ何も形がない状態から、ある程度の形にするまでは僕が直接手を動かすこともあります。

エンジニア250名、プロダクト10以上。CTOとして技術戦略とアーキテクチャ設計を担う

250名ものエンジニアがいると、現場の感覚から離れてしまう恐れはありませんか?

そこは常に意識しています。組織が大きくなり、リモート中心の働き方になったこともあって、意識しないと現場との距離は開いてしまいます。そこで、現場の情報に触れる方法を大きく2段階で持っています。

1段階目は、日常的に現場の声を「見て回る」ことです。社内IT系のチームが各店舗を回ってヒアリングした内容や、社内ヘルプデスクへの問い合わせに目を通しています。プロダクト側でも、顧客へのヒアリング内容やサポートへの問い合わせを、かなり見て回っています。

2段階目は、自分自身が現場に足を運ぶことです。実際に店舗に出向いたり、顧客事業所へのヒアリングに同行したりもします。実際に使っている方の様子を目の前で見ると、画面上の情報だけでは分からない気づきがあります。

福祉業界では3年ごとの法改正や報酬改定がありますよね。このあたりの対応でシステムを一度考え直さなきゃいけない、といった大変さはありますか?

そこはすごく大きいです。医療保険と似ており、国と自治体が9割負担する代わりに、民間や公的な福士事業所を問わず、運営基準が定められています。病院でもらう明細のように「初診は何単位」とか細かく決まっていて、それを計算して国保連に請求する「レセプト」という処理がシステムの心臓部なんです。

これが3年ごとに変わる。しかも、少しではなく、ガラッと変わることもある。例えば「1日単位」だった計算が急に「時間単位」になったりする。さらに、システムを変更する時間的な猶予がなく、改正案や国保連とのインターフェースの確定は3月に入りますが、4月1日から施行されるんです。

めちゃくちゃ短納期ですね …

超短納期・デッドラインドリブンの開発です。ここでいかにシステム負債を増やさず、事故なくリリースするか。アーキテクチャ設計やドメイン知識が非常に重要になります。ここで大きなバグを出してしまうベンダーさんも世の中にはいるくらい厳しい世界です。

次の改正は来年(2027年4月)ですね

はい。エンジニアも厚労省の議論をウォッチして「今回はどういうシステム改修が必要そうか」というのを読み解きながら準備しています。

全エンジニアがClaude code/GitHub Copilotを活用。要配慮個人情報を扱うからこそ問われる、攻めと守りのガードレール設計

今、様々な企業がAIを活用していますが、LITALICOさんとしてはいかがですか?

元々、SESの方も含めてエンジニア全員がGitHub Copilotを利用しており、昨年度からClaude Codeへの移行がかなり進捗しています。当初は半数ほどだった利用者が、現在はほぼ全員に広がりつつあります。最初はコーディングアシスタントとしての導入でしたが、今はさらに踏み込んで、プロジェクトの計画段階からAIを活用しています。

あとは、社内のあらゆる業務にAIエージェントを置いて、どれだけ業務を変革できるか。ガードレールの作り方を含めて模索しています。

弊社は上場企業ですし、扱うデータのほとんどが「要配慮個人情報」です。障害に関する診断名や特性など、非常にセンシティブ。だから保守的になりすぎるのもダメだけど、ガードレール設計は一般的な企業以上にシビアにやっています。その上で「障害のない社会を作る」という高いビジョンを達成するために、攻めの姿勢も忘れない。そこが難しいところです。

その一例が、対人支援の現場での取り組みです。LITALICOワークスなどでの面談をボイスレコーダーで録り、AIで文字起こしして、支援記録のフォーマットに自動でまとめる、といったことを現場で使い始めています。福祉の現場は事務作業が本当に大変なので、AIで負担を減らし、スタッフが目の前の利用者さんへの支援に集中できる時間を増やしたいと考えています。

こうした自社の現場での取り組みから生まれたノウハウは、障害福祉業界全体に還元したいと思っています。そのために、他の福祉事業所さんにも使っていただけるよう、toB事業のプロダクトとして開発を進めています。

AIの活用によって、採用基準に変化はありましたか?

現状は、幅広くエンジニアを募集しています。

弊社では、新卒はE1からスタートし、E2、E3と昇格していくような等級制度があります。プログラマーレベルの仕事はAIに置き換わっていくかもしれませんが、弊社ではそこの枠を閉じるのではなく、逆に「E3(設計やチームリードができる層)」への成長ポテンシャルがある方にもジョインしてもらっています。

\LITALICOではエンジニアを積極採用中!/

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